【レスリング】吉田沙保里&伊調馨。新階級で見えた一抹の不安 (3ページ目)

  • 宮崎俊哉●構成・文 text by Miyazaki Toshiya photo by AFLO

「ライバルがライバルを強くする」
「ベテランは若手の突き上げがあってこそ、さらに強くなる」

 勝負の世界で使い古された格言だ。

 だが、吉田や伊調を倒し、自らの時代を築くべく虎視眈々と狙っている若手が、果たして国内にどれだけいるだろうか。ロンドンオリンピック前、吉田を追い詰めた村田夏南子(日本大)は、吉田との対戦を回避してか、60キロ級で出場。全日本選手権の決勝戦で吉田と戦った浜田千穂(日本体育大)は、オリンピックでの階級として採用されていない55キロ級に留まった。村田、浜田ともに世界選手権出場の経験がないため、「まずは全日本選抜で優勝して世界選手権の切符を……」という気持ちもあるだろうが、打倒・吉田の執念をもっと見せてほしい。

 負傷した伊調に代わって今年のワールドカップに出場し、全勝を飾った川井梨紗子(至学館大)は58キロ級にいたものの、他の選手は伊調との対戦を避けてか、出場選手はわずか4名。新階級でひとつでも多く試合を経験し、「自分の階級」にしていきたいのに、国内では質・量ともにライバルが少なすぎる。

 世界中の国が吉田や伊調との対戦を避け続けてくれば、ふたりの栄華は続くだろうが、そうも行くまい。

 今年7月には、女子レスリング王国ニッポンの胸を借りようと、フランス代表チームが来日する。女子レスリングの「虎の穴」と呼ばれる新潟・十日町で合同合宿が行なわれるが、吉田と伊調は口を揃えて、「本番さながらのスパーリングを数多くこなしたい」と語っていた。加えて伊調は、「この夏、可能な限りはヨーロッパなどで行なわれる国際大会に出場して、世界選手権につなげたい」と計画している。

 吉田沙保里、31歳。伊調馨、30歳。依然として、国内で突出した実力を誇る女王たちが、今後どのように自らを鍛えていくのか、注目される。

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