【レスリング】吉田沙保里&伊調馨。新階級で見えた一抹の不安 (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●構成・文 text by Miyazaki Toshiya photo by AFLO

 吉田の体重は、普段から55キロあるかないか。伊調も高校入学当時は、55キロ級で吉田とともに戦っていた。ところが、日本レスリング協会強化委員長であり、当時ふたりが在籍していた中京女子大学・附属高校(現・至学館大学、至学館高校)の監督であった栄和人はアテネオリンピックを見据え、体重の軽い吉田をそのまま55キロ級に、身長のある伊調を63キロ級に振り分けた。その結果、ふたりともこれまで減量の心配はまったくなく、大会直前まで体重を気にせず追い込んだ練習をできたことが、強さの秘密のひとつだった。

 また、北京オリンピック後、レスリング道を追求し、自らのレスリングの確立に精進し続ける伊調には、「余分な脂肪をそぎ落とし、絞りきった身体で戦ってこそレスリング」との理想がある。それゆえ、旧階級で行なわれた昨年暮れの天皇杯全日本選手権でも、伊調は63キロ級から59キロ級(※)に落として戦っている。

※オリンピック以外(世界選手権や全日本選手権など)の女子スタイルの旧階級は、48キロ級、51キロ級、55キロ級、59キロ級、63キロ級、67キロ級、72キロ級の7階級。

 そして今大会、ふたりは新階級になっても、段違いの強さをいかんなく発揮。他をまったく寄せ付けずに優勝を果たし、今年9月にウズベキスタンのタシケントで行なわれる世界選手権の切符を手に入れた。

 大会前の減量苦はなかったものの、逆に体重が落ち過ぎたという吉田は、優勝インタビューで「慎重になり過ぎました。まだ自分の階級になってなく、軽い選手の動きの速さに戸惑った部分もあり、腰高になって攻められました」とコメント。一方、今年1月のヤリギン国際大会(ロシア)ですでに58キロ級での戦いを経験している伊調は、3月に痛めた首のヘルニアが悪化していたことを感じさせず、2試合ともに完封勝利。孤高の強さを見せつけながらも、「まだ、58キロ級の戦いがつかめていません」と厳しい表情で、いつもの伊調らしさをのぞかせていた。

 日本レスリング協会は、「2020年東京オリンピックで金メダル10個」と宣言している。目標を達成するためには、女子が6階級中、少なくとも5階級で金メダルを獲らなければならない。アテネ、北京オリンピックでは4階級で金メダル2個、ロンドンでは同じく4階級で3個の金メダルを獲得している。また、今年3月に東京で開催されたワールドカップ国別団体戦では、強豪ロシアとの決勝戦で7戦全勝をマークした。オリンピックでの実施階級が増えたことで、リオではこれまでの大会を上回る金メダル量産が期待されるだろう。しかし、思わぬ落とし穴があることを、見逃してはならない。

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