髙梨沙羅があるおばあちゃんに教えられた「ソチ五輪4位」の価値 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

 五輪のジャンプはたった1日、2本だけの戦いだ。その日の気象条件や運の良し悪しによって結果は大きく変動する。それに対して、ひとシーズンでいくつものジャンプ台を回り、様々な気象条件の中で戦って総合順位を競い合うW杯は、運だけ以前に絶対的な強さが求められるもの。選手達が、本当に求めているのはその強さであり、五輪王者は五輪王者であって、最強の称号ではないという意識も持っている。

 ソチ五輪の重圧から開放された髙梨は、その後のW杯では5戦全勝という結果を残した。その中にはルーマニアのラスノフ大会初日の26点差や、ラージヒルで行なわれたオスロ大会の39.1点差での圧勝劇も含まれている。それが髙梨とほかの選手の、アベレージの差である。

 そんな戦いを彼女は「W杯ではジャンプ台がどんどん変わるから、転戦することでそれぞれのジャンプ台に慣れなければいけない。どうやってそのジャンプ台を攻略していくかというのが楽しみのひとつだし、それを常に考えていることにやりがいを感じます」と話す。それが彼女にとってのジャンプ競技の魅力なのだ。

 ただ4年に一度の五輪は注目度が高い。髙梨はその意味を、ファンのおばあさんからもらった長文の手紙で改めて感じたという。「(髙梨沙羅が)頑張っている姿を見ることで、生きることを頑張れている」と、お礼の言葉が書かれていたのだ。それを読み、そのおばあさんがもっともっと生き続けてくれるなら、自分ももっと頑張れると思ったという。

「ソチでは助走スピードも出ていなかったけど、それはしっかりと自分のポジションに乗れていないということ。それがテイクオフにもつながらなかったと思います。ただ、悔しいと思った部分もあったけど、五輪では本当にたくさんのことを経験させてもらえたので、そのひとつ、ひとつが今後の競技人生の中でも役立ってくれると思います。それを忘れてはいけないと思います」

 こう話す髙梨は、次の五輪でもチャンスをもらえるなら、ソチ五輪ではできなかった、これまで支えてくれた人たちへ感謝の気持ちを伝えられるような結果を残したいとも話していた。それはまさに、完璧なジャンプをする真の強さを持った選手になることだ。

 ジャンプ選手の誰もが目標にするW杯総合優勝。しかも連覇という偉業を達成した髙梨にとって、ソチ五輪の敗戦は、「もっともっと強くなりたい。強くならなければいけない」という強い気持ちを、改めて心の中にしっかりと植えつけるものになったようだ。

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