【月刊・白鵬】初めて対決した話題の「遠藤」を横綱はどう見たか (2ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 待望の日が訪れたのは、場所前の3月4日のことでした。遠藤も上位陣との対戦が続くことを想定して、積極的に出稽古を重ねていました。鶴竜や日馬富士らが出稽古に来る時津風部屋にも足を運んでいて、多くの力士が集まるその稽古場に、私が乗り込んだのがその日でした。

 遠藤はいったい、どれくらい力をつけているのか? 半年前とはどこが違っているのか? 立ち合いの威力はどれほどのものか? また、痛めた足の具合はどうなのか? 実際に体を合わせてみなければわからないチェックポイントは山ほどありました。

 遠藤とは、11番ほど相撲を取りました。結果的に一番も負けることはありませんでしたが、私はそこで、いろいろなパターンを想定して、彼の感触を確かめ、彼の相撲のチェックを重ねました。

 実際にチェックしての感触ですか? それは"企業秘密"です(笑)。もちろん、力のあることは伝わってきました。できれば、個人的にはもっと多く相撲をとってみてもよかったかな、という思いがありましたね。

 遠藤はその日、私だけでなく、ベテランの安美錦関や新入幕の照ノ富士など、いろいろなタイプの力士とも稽古をしていました。また、時天空関には稽古の間合いを注意されるなど、「番数」だけではなく、プロの世界における稽古場の厳しさというものも教えられていました。そういう意味では、多くのことを学び、味わえて、遠藤にとっては有意義な一日だったのではないでしょうか。

 さて、そんな遠藤と本場所で対戦したのは、春場所3日目のことでした。ちょうど1週前に稽古場で体を合わせて、そこで私が全勝したからといって、決して油断はできません。稽古と本番はまったく違います。稽古場では見せなかった奥の手を使ってくるのが、プロの力士です。事実、遠藤は場所前の稽古ではまったく歯が立たなかったという鶴竜と初日に対戦し、土俵際まで追い詰める際どい相撲をとりました。

 ゆえに、私も遠藤との対戦を前にして万全の態勢を整えていました。加えて、3日目は奇しくも3月11日でした。3年前に東日本大震災が起こった日であり、私の29回目の誕生日でもあります。その分、私の士気はいつも以上に高まっていました。

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