【スキージャンプ】「次は金メダル」。葛西紀明の快挙で団体戦へムードは最高 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi photo by Enomoto Asami/JMPA

 だが、2本目の条件は厳しいものになった。

 1本目24位で7番スタートだったマリヌス・クラウス(ドイツ)が向かい風を受けて140mを飛んだことで、そのふたり後からは飛びすぎを避けるために1本目よりゲートが2段下がり、その後の選手は全員助走スピードが遅くなったのだ。さらに、そこへ追い風が続いた。

「ジャンプ台の左側は緩やかな向かい風だけど、あとは全部追い風という極めて厳しい条件。ウインドファクターの得点がどのくらいになるかにもよりますが、130mを飛べばメダルだなと予測していたんです。実際、葛西は130mに届かなくてもおかしくない条件でしたけど、彼は最高のジャンプを見せてくれたと思います。今日は2本とも踏み切りのタイミングも良かったし、完璧なジャンプでした」

 横川朝治ヘッドコーチがこう言うように、葛西は追い風0・15mで133・5mを飛び、ストッフを残してトップに立った。ストッフはほぼ同じ条件で132・5m。2本目は葛西より得点が低かったが、合計で1・3点上回り僅差で金メダルを手にした。

 試合後、葛西は「結局、飛型点の差でしたね」と苦笑した。2006年の夏に痛めて以来、膝痛のため、着地でなかなかテレマークを入れられなくなっていた。それを、膝の周囲の筋力強化で克服し、どうにかテレマークを入れられるようになってはいたが、ストッフに比べるとまだ精度が足りなかった。

 それでも、横川ヘッドコーチは「今の葛西のジャンプは空中を進む速度が世界一」と評価する。「今回良かったことは、葛西が五輪前のW杯で自分のジャンプを完成させていたこと。踏み切りのタイミングが遅れてもしっかり飛んでいけるジャンプになっていた」

 その完成度の高さがあったからこそ、葛西は大会直前に腰痛になりながらも、落ち着いて試合に臨めた。

「ジャンプを飛んだら痛くなり、休めば治るけど飛んだらまた痛くなるという繰り返しでした。昨日も少し違和感があったけど、一日中治療をしてもらい、痛みが減ってから今日の試合だったので、リズムが良かった」

 実は葛西は、ソチ入りしてから練習を休んでいた。このラージヒルでもそれは同じで、飛んだのは決勝2日前の公式練習の2本のみ。さらに風の状況が悪いため、ラージヒルの試合前の試技は中止になり、葛西はいきなり1本目を飛ぶことになった。

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