【ノルディック複合】プレッシャーを「銀」に変えた渡部暁斗の心・技・体 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by JMPA

 年明けにかかったインフルエンザが治ってからは、それまで迷いのあったジャンプの助走の姿勢も、ピタリと決まるようになったという。病気になってしっかり休んだことで、溜まっていた疲労が抜け、身体もリフレッシュできたと語る。「寝ている間にジャンプなどのイメージトレーニングをしていたのか?」という質問に対し、渡部は、「いえ、何もやっていませんよ。寝ながらゲームをやっていただけですから」と応えて記者たちを笑わせた。

 五輪直前のW杯総合ランキングは2位。走りにさらなる自信をつけた今季は、普通にジャンプをすれば、走りで巻き返して表彰台へ上がれるという手ごたえを掴んだ。だが、そんな状態で迎えた五輪でも、渡部はこれまでに感じたことのないようなプレッシャーがあったという。

「僕がこの競技をやっているのは、技の追求や研鑽(けんさん)が一番の目的なんです。でも、そうやっている中で結果を出したことによって、注目されるようになり、金銭面や用具提供などでサポートを受けられるようになった。JOC(日本オリンピック委員会)のマルチサポートも受けるようになったし、日本スキー連盟の特A指定になって海外遠征にも出させてもらっている。そういうスポンサーの存在やテレビや新聞の取材を受けることも、結局は、『期待されているから』じゃないですか。だから、そういう期待に応えなければいけないんじゃないか……ということを考えた時期もありました。僕が競技に対して思っていることと違うところでのプレッシャーがすごくあったので、それは正直苦しかった」

 そんなプレッシャーや苦しさを抱えながら、渡部はソチの地で自分のやるべきことをやって、銀メダルを獲得した。だからこそ、それは決してフロックではなく、本当に自分の手で勝ち得たメダルだともいえる。

「とりあえずメダルを獲ってホッとしたけど、まだまだプレッシャーは感じていますよ。これからラージヒルも、団体戦もありますから」

 こう言いながら笑顔を見せる渡部だからこそ、ノーマルヒルの銀メダルに止まらず、ラージヒルや団体戦でもメダルを手にしてくれるのではないか――。そんな期待も膨らんできた。

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