バレーボール界の開拓者、ヨーコ・ゼッターランドが説く「規律」と「パワハラ」の区別 (4ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by AFLO

――悲しいかな、代表へ入るのにアスリートの才能と努力以外に必要なものがありましたね。

「残念なことではありますが……。ただスポーツの世界以外でも同じようなことはいくらでもありますよね。この時に学んだことはどんなことにも影響されないぐらい突き抜けなければいけないんだな、ということでした。

 それと同時に思ったことは私個人の経緯とは別に、組織としてより良いものをつくるためには視野を広く持って、選手を幅広い中から選択していくことが大切だということです。」

――他国の代表セレクションやサッカーのケースを見ると選手を至るところに見に行っているんですね。トルコ代表は当然のようにドイツ在住のトルコ人まで見に行きますからね。

「世界的なことを考えれば、もっとグローバルに選手を見てもいいのかなと思います。話は変わりますが……。私は、今は何よりもハーフの選手が増えていることにビックリしているんです。自分が現役だった頃から25年くらい経っていますが、昔は生粋の日本人だけでやるんだという意見もありましたから。生粋の日本人っていったい何だと思ったこともありました。外国人であっても日本に帰化する人はどうなのとか。その考えはラグビーとかサッカーとか、競技によって随分違うんだなって思ったんです」

――今思うと、ヨーコさんが現役時代に経験したVリーグの『外国人選手の出場禁止措置』がありました(※これによって米国籍のヨーコ・ゼッターランドは在籍していたオレンジアタッカーズで出場権を失い、引退を余儀なくされた。引退して二年後にまた外国人枠は設けられた)。

 今、同じようなことを競技団体が行なったらレイシズムではないかと大騒ぎになっていると思います。当時のVリーグ機構は、外国人選手を入団させると日本人選手が育たないというのが、表向きの理由としましたが、プロ野球やJリーグを見ても自明のように、優秀な外国人選手と切磋琢磨することでレベルも上がるわけですから、詭弁ですね。実際、男子バレーは外国人枠をずっと保持していたわけですから、矛盾した説明でした。

「選手の需要と供給がお互い一致しているところで、よくわからない外国人枠の撤廃。それも男女平等でなく行なわれたことが残念でした。

 言葉の暴力やセクハラ、パワハラ、メンタルアビュース……。そういうものはなくなってほしいですね。でも表面的なものが消えていくと、陰湿に内にこもっていくということもまた事実だと思うんです。いじめもそうですけど、見方によって、本当の原因がなんだったのかということを解明しないといけないですね。もしかすると、暴力がなくなるということはないかもしれないですけど、なくなるように少しずつ近づけていくというのはとても大事なことですね」

■プロフィール

ヨーコ・ゼッターランド
Yoko Zetterlund

1969年3月24日アメリカ生まれ。
6歳から日本で育ち、中学、高校時代は女子バレーボールの全国大会や世界ジュニア選手権で活躍。1991年に渡米し、米ナショナルチームのトライアウトに合格。オリンピック代表に選出され、1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得。1996年アトランタ五輪では7位入賞。現在はスポーツキャスターとして各種メディアに出演するほか、嘉悦大バレーボール部監督を務める。


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