バレーボール界の開拓者、
ヨーコ・ゼッターランドが説く「規律」と「パワハラ」の区別

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by AFLO

――厳しさの中にこそ達成感というのはありますね。

「本当にそうですね。厳しさの中でどうやって教えていくか。厳しさが自発的に出てくることが理想ですが、人は安易なほうに流れやすい傾向にありますよね。いきなり最初から厳しく指導するというわけにはいかないので、自発的な厳しさが出てくるまで待っているときには高い授業料を払うことになるときもあります。負ける悔しさも本人が実感してくれないと意味がないし、(試合に)使い続けるとなかなか勝てないというのもありますし、ちょっとした葛藤です、そこは」

――スポーツ界に置ける暴力の定義で言うと、ヨーコさんの場合、実力で日本代表に入れた人が進学という自分の意志を貫いたという理由で外されたということも、暴力だと思います。

 しかし、ヨーコさん自身がパイオニアになったことで、今は実際、女子のバレーボール界は大学に行っても代表になることができる。あの決断は最初の風穴だったと思うんです。

「大学のバレーボール強豪校、例えば筑波大出身の先輩や、東北福祉大とか東海大出身、日体大出身の方で全日本に入られてオリンピック行かれた方やメダリストの方はこれまでもいらっしゃいました。

 私の場合は、入学当初のチームが弱かったことが『選手としての実力も低下するのではないか』と懸念されたことは確かにありました。しかし自分がどこの大学で勉強したいのかとか、どのチームでプレーしたいのかという選択権利は誰にでもあるはず。目標を変えなければそこを目指して環境を変えていくことができると思うんです。こういう風に言ってしまうと、『それって選手のわがままでしょ』と言われることもあるんですが……」

――しかし、それは選手の人生なわけですからね。

「たとえば、どこに進学をしたとしても、就職したとしても、チームのレベルではなく個人をセレクトしていくという考え方が、もし私が現役のころにあったとしたら、また変わったかもしれないですね。現在、女子の選手が少しずつ大学に行くようになったのを見るとうれしいですね。高校生に関してもバレーボール強豪校ではない学校に進学しても代表候補にセレクトされ続ける形もできてきました。隔世の感がありますね。

 実力的に見ると大学1部リーグからになってしまうとは思うんですが、日本代表候補に現役の大学生が数名単位で選ばれるようになりました。今もVリーグで活躍する大学出身の選手が、ちょっとずつ注目してもらっているので、そういう傾向になってきたのはよかったかなと思います。だからこそ、私は現役大学生で全日本の主軸になるような選手を育てることを、ひとつの使命としていかないといけないと思っています」

――パイオニアらしい考えですね。

「自分が大学に行きながら、現役でオリンピックに行きたいというのがすごくあったんです。その可能性があったとしたら、1988年のソウルオリンピックだったんですね。ただチーム(早稲田大)はまだまだ関東リーグの下の方でした。それまでの約2年間の経緯を言うと、大学に入って全日本ジュニアに選ばれて世界選手権があって、その後ユニバーシアードがあったんですが、強化指定選手という名前だけで、ユニバーシアード以外の強化合宿には呼んでもらえず、『結局こういう位置づけに置いておかれるんだ』と思いながらソウルオリンピックをテレビで見ていました。その時は自分が選んだ道だからしょうがないと思いつつも、ちょっと悔しかったですし、もっと(代表選出の)選択肢が増えないかなというのは思っていましたね」

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