さようなら、そしてありがとう。2013年に引退したアスリートたち

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi photo by AFLO

 プロボクサーの西澤ヨシノリは、47歳でようやくリングを降りることになった。メジャー団体の世界タイトル獲得には至らなかったが、OPBF東洋太平洋ライトヘビー級王者になるなど日本人離れした体格を誇り、『中年の星』としてボクシングファンに愛された。西沢は現役であることにこだわり続け、37歳で引退しなければならないと定めたJBC(日本ボクシングコミッション)のルールを改正させ、さらに40歳を超えてもなお、まわりの反対を押し切って海外で戦い続けた。そして2年前、マイナー団体ながら世界王座を獲得。あきらめなければ不可能はないことを証明した西沢だったが、「ボクサーとしての可能性を使い果たした」と語り、現役を去る決意をした。

 そしてプロレスラーの小橋健太(46歳)も、ついにリングに別れを告げた。2006年に腎臓がんを患い、現役生活は不可能と言われながら、闘病の末、1年半後に復帰。しかし、相次ぐ関節や骨の故障により、長期離脱を繰り返した。だが、ファンから尊敬を込めて『プロレス馬鹿』と呼ばれる小橋はあきらめることなく、スポットライトの下に幾度となく舞い戻った。誰もが小橋の身体を気遣い、引退すべきだという論議も起こったが、本人はリングに立ち続け、ついに今年、四半世紀に及ぶ現役生活を終えた。

 誰もがファンから大声援を浴びて、去ることができるわけではない。しかし、信じてくれた家族や仲間たちは、その判断を受け入れ、労をねぎらってくれる。

 昨シーズン、楽天を退団した下柳剛(45歳)は現役続行を願い、ロサンゼルス・ドジャースの入団テストなどに挑戦したが、結局、受け入れてくれる球団は現れなかった。今年3月に引退を決意すると、「未練たらたらよ」と言いながらも、「最後の最後まであがいた。下柳は野球が好きだという姿勢は見せられたかな」という反骨精神旺盛な下柳らしいコメントを残した。

 そして11月、下柳の高校時代の仲間たちが引退試合をしていない孤高の左腕のために花道を作ろうと、母校である長崎の瓊浦(けいほ)高校に集い試合を行なった。終了後、照れ屋の下柳は嫌がりながらも、胴上げで宙に舞った。1年遅れの引退試合は、スタジアムを包むどんな大歓声よりも、心に響くものだったに違いない。

 どんな引退が正しいといった答えなどない。引き際は人それぞれであり、現役時代の輝きが、それによって色あせることはないのだ。一瞬でも我々を熱くしてくれたすべてのアスリートに、謝意を表したい。

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