好調・男子ジャンプ陣を支える。横川朝治HCの独自理論 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 築田純●写真 photo by Tsukida Jun

 そこに着目して観察すると、バランスを狂わせる最大の要因は『疲れ』だとわかった。長時間飛行機に乗って来た時が一番フラフラしているのだ。移動距離の長い日本勢にとっては大きな問題だった。その傾向からバランス感覚を早く取り戻させるためにと、目を閉じて自分のバランスを探らせることを試みた。人間がバランスをとる基準は、視覚に入ってくる垂直や水平な物。視覚の情報をなくして自分の感覚で正常なバランスを探らせたのだ。

「早く自分のバランスを見つけることで、疲れを引きずらなくなり、早くベストコンディションに持っていけることがわかりました。それに加えて、体重比でみれば日本人もパワーがあることに気づき、器用さも持っているから、これは勝負になると。そういう発想に切り換えたのがヘッドコーチ1年目でした」

数cmの差が生む勝敗

 ジャンプの踏み切りで重要だと以前から言われているのは、助走姿勢になった時の膝から下の角度を保ったまま飛び出すことだ。ジャンプスーツのサイズが小さくなり、踏み切りで高い飛行曲線を出すためにジャンプ台にパワーを伝える重要性が増してもそれは変わらない。膝下の角度を意識し過ぎるとつま先で蹴って倒れ込むようになりがちだが、横川HCは、体を前方に進ませながらも、足の裏全体の面に対して垂直方向に力を伝えるのが理想の踏み切りだと話す。そういう感覚を研ぎ澄ませるために、試合の間にはスケートリンクを借り、長いスキーよりバランスの狂いが如実に出るスケートで踏み切り動作をやらせたりもしている。

 それとともに取り組んだのがスキーの長さを、選手の身長で使用できる上限より短くすることだ。1年間ほどワックスマンに協力してもらって外国勢のスキーの長さのデータを取ると、上限より少し短いくらいが一番いいのでは、という結論になった。W杯などで、助走路を凍結させるルールになったため、スキーが短くても助走スピードはさほど変わらなくなっている。さらに短い方が空中でも操作しやすく、風圧などでの減速を抑えられるのだ。

「それぞれ違うけど、選手によっては3~4㎝短いのが一番飛べるスキーになるんです。ただ選手は短いと不利だという固定観念があったから、短くさせるのは簡単ではなかったですね。本人が試してみると言い出すまで待って、ひとりひとりを試してみて長さを決めていきました」

 身長に対して使える上限の長さのスキーを使用していた頃は、BMIルールの併用もあり、選手たちは遠征中でも体重が減り過ぎないように神経を使ってピリピリしていた。だが短いスキーにして体重減に余裕を持たせることで、精神的にもリラックスできるようになった。それも成績上昇の大きな要因になったのだ。

体重÷身長÷身長で出した数字を基準とする板の長さ。体重が軽いとその分板も短くなる。

 葛西も昨季までは身長に対する上限より3㎝短いスキーを使用していたが、今季はそれをさらに4㎝短くしている。強い追い風の時は浮力は感じられなくなるが、それ以外の時は以前より空中で進んでいる感じがするというのだ。

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