ソチ五輪で初のメダル獲得なるか。ショートトラック女子が秘める可能性

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 そんな経験から、帰国後は男子選手の後に付いてスピード強化をした。その結果、W杯トリノ大会後の約1ヶ月の練習で、1周111.12mのトラックで男子について、ラップタイム8秒7まで出せるようになっていた。これは3年前、バンクーバー五輪後に自らが刻んだラップタイム(9秒3)とは次元の違うスピードである。

「世界で戦うためにはスピード持続力をもう少しつけなければいけないけど、瞬発力も上がっていたので、今回は『スピードがついた』という自信をうまく生かして戦えました」と酒井は笑顔を見せた。

 他の選手たちも酒井に敗れたとはいえ、それぞれ自分との戦いをしていた――。W杯や世界選手権でメダルを獲得した昨シーズンからは、酒井を筆頭に伊藤亜由子(トヨタ自動車)、桜井美馬(東海東京証券)、清水小百合(中京大学)で固められていたリレーメンバー。彼女たちはこの大会に向けて「誰かひとりでも脱落するわけにはいかない。総合ポイント4番以内に入って、全員でソチへ行こう」と話し合っていたのだ。

 その中でも、今年はナショナルチームのキャプテンを務めた、27歳で最年長の伊藤は厳しい状況にあった。9月の距離別で腰を痛め、全治2週間の腰椎分離と診断された。それでもW杯上海大会に強行出場したが、10月下旬には右ひじを脱臼。さらに枠取りがかかったW杯にも出場したため、今大会はまだ十分に腕が振れない状態だった。

 だが彼女が見ていたのは、五輪での戦いであり、この大会の勝ち負けではなかったという。

「今の状態で勝つ方法もあったと思うけど、世界の現状をみると最初から前に出てレースをしないと通用しないので、そのイメージでレースをして、前に出るタイミングやスピードを上げるタイミングは良かったと思います。W杯後はリハビリに時間を費やして滑り込みが不足していたので、スピードを上げていかなければいけない後半に失速していました。でも私としては五輪を見据えたレースをしたかったので、負けてもそこは譲りたくなかったんです」

 こう話す伊藤はこの大会、すべてのレースでA決勝に進出して500mはともに2位、1000mと1500mは2位2回で、合計ポイントでも同大会2位の成績を残した。

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