【月刊・白鵬】把瑠都、引退。横綱が最も強いと評した男の「泣き所」 (2ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 身長198cm、体重189kgという恵まれた体格で、大関を15場所務めた把瑠都。懐(ふところ)が深く、上半身の力がとても強かったため、いとも簡単に相手力士を振り回すことができました。それは、彼にしかできない技でした。

 そうした強引な取り口が裏目に出てしまったのか、数年前からヒザを痛めていたようで、なかなか思うように昇進できませんでした。大関昇進までにもかなりの時間を要し、大関になってからももたついて、結局期待された綱取りは実現しませんでした。

 力は十分にありました。私はあらゆる力士の取り口を研究していますが、「把瑠都が本気を出したらかなわない」という思いをいつも抱いていました。だからこそ、この連載コラム内でも、次期横綱候補には常に把瑠都の名前を挙げてきました。

 2012年に初優勝。それも遅過ぎるくらいでしたが、それからいざ綱取りというチャンスを迎えたときには、必ずや70代横綱に昇進するものと思っていました。私とは違う豪快なタイプの相撲を披露し、明るいキャラクターの把瑠都が横綱になれば、ふたりで新しい時代を築いていけるのではないか、という目論みもありましたが、夢は叶いませんでした。

 その要因は、ヒザの問題だけではなく、彼の「人柄の良さ」にもあったのではないか、と私は思っています。「ここ一番」という重要な一戦で、彼は"鬼"になりきれないんですよ。あの明るく、屈託のない笑顔を思い浮かべてもらえばわかるように、把瑠都は普段から自分のこと以上に他人のことを思いやる、本当に優しい性格の持ち主なんです。勝負師としては、あまりにも人が良過ぎたかもしれませんね。

 そんな把瑠都とは、いろいろなことについて語り合う間柄でもありました。柔和な表情とは裏腹に、一本筋の通った意見の持ち主だったからです。相撲界についても、自分なりのきちんとした考えを持っていて、その主張には私もかなりの影響を受けましたね。

 まだ28歳。引退してしまうのは本当に残念でなりませんが、彼ならば、力士とはまた違う立場で、相撲界のために力を尽くしてくれるのではないかと思っています。

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