五輪開催都市決定前夜。ブエノスアイレス市民が見た「日本」 (2ページ目)

  • 三村高之●文 photo&text by Mimura Takayuki

 5日に行なわれた招致委員会の記者会見には、日本の入江陵介(水泳)、有森裕子さん(マラソン)ら新旧メダリストらが登場しアスリート宣言を行なった。アルゼンチン唯一のスポーツ新聞「Ole」の記者は、「この中の誰も知らない」と言う。一方、最大発行部数を誇る「Clarin」紙はこの日、マドリードのプレゼンターであるガソルにスポットを当てた。NBAレイカーズ所属で知名度が高く、スペイン語なのでインタビューは簡単。その上、「メッシの応援には感謝している」などと言うのだから扱いは大きくなる。アルゼンチンでの報道に限っていえば、アスリート対決、分はスペインのほうがいいようだ。

 IOCがこの総会のために用意した関係者やプレス用のADカードは約2000枚。その内の約600枚が日本人向けだという。また、現地でパブリックビューを観ながら応援するという一般のツアー客も100名以上やってくる。招致委員会のベースとなったのは、プレスルームも設置されたレティーロ駅前に建つホテル。関係者が300名近く滞在しているが、イスタンブールもここを利用し、東京に先駆けて記者会見も行なっている。両陣営とも出入りが激しいため、チャーターした自動車を玄関前に駐車するためのスペース争いが発生した。

 大量の日本人が詰めかけたことで、日系の旅行会社は大忙しだ。続々とやってくるお客さんを空港へ出迎え、滞在中のさまざまなアテンドをする。また日本語の通訳は品薄状態となり、通常は250ドル(約2万5000円)程度の日当が350~400ドルへ跳ね上がった。偶然日本人グループを乗せた日系の運転手は、それからほぼ専属のようになり売り上げを伸ばす。そして、日本食レストランもホクホク顔。当初はアサード(アルゼンチン式焼き肉)など現地料理を楽しむが、滞在が長引けば日本料理が恋しくなる。こうして今回の日本フィーバーは、一部の日系社会に少なからず好景気を与えている。

 現地の日系人たちは、これまでにもさまざまな場所やイベントで東京招致をアピールしてきた。たとえば4月に在アルゼンチン沖縄県人連合会々館で開催された「日本祭り」では、空色と白のアルゼンチンカラーの布に、来場者に一針ずつ刺してもらい「とどけ、みんなのおもい」という文字を縫いつけた。彼らにとっても、今回のことは降ってわいた出来事ではなく、独自の支援活動を続けながら待ちわびていたものなのだ。

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