シドニー五輪テコンドー銅メダリスト・岡本依子の悲愴な願い (5ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko photo by AFLO SPORT,AFLO

 かように大きなポテンシャルを秘める競技であるからこそ思うのだ。今後再び組織の問題で選手の貴重な現役時間を消費させるような事があってはならない。JTA(日本テコンドー協会)会長の河は言った。

「WTFにしろ、ITFにせよ、テコンドーは韓国の国策でできた武道ですから元々が政治的な競技。それゆえに団体の派閥が強固で、対立したり分裂したりというのは、ある意味で宿命のような部分があったのは事実。しかし、選手は本当に人生をかけて一生懸命やっているわけですから組織を運営する人たちは、出自はどうであれ、今後は選手を第一に考えなければなりません」

 今、岡本は競技団体の枠を超えた一般社団法人「アスリートネットワーク」の活動を積極的に展開している。この組織は種目を問わず、トップアスリートたちが個々で集まり、現役アスリートの支援や引退後のキャリア環境整備などを行なうという。その流れで1月20日、東京で日本アスリート会議が行なわれた。

 縦割りが常識になっているスポーツ界において競技団体が横でつながるという試みは、真新しさを感じさせた。会場には議長の柳本晶一(バレーボール)、シンクロの井村雅代、柔道の山下泰裕、ラグビーの平尾誠二、そして我那覇和樹の冤罪事件で果敢に立ち上がった藤田俊哉(Jリーグ選手会会長を6年務めた)らの姿もあった。

 セカンドキャリア支援の議題を巡っては、日本代表経験の豊富なある女性アスリートの発言が特に心に残った。

「私達のようにこの場に来られるトップアスリートだけではなく、むしろここに来られない選手たちのことを思って考えていきましょう」メンバーからもこれには賛同する声が多かった。

 アスリートの側から立ち上がったムーブメントが動き出しつつある。岡本は自身が身につまされた体験を無駄にはしたくないと考える。だからこそ、彼女は「プレイヤーズファースト」「I can do it」の精神を日本に根付かせようとしている。

第1回>>選手を五輪に送り出せるのか。テコンドー分裂問題の今


シリーズ 『スポーツ紛争地図』

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