【スキージャンプ】W杯札幌大会。なぜ高梨沙羅は飛べなかったのか? (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

 初開催だった昨季のW杯で総合3位になり、一気にソチの星として注目された高梨は、大会前からW杯の宣伝にも起用され、知名度も急上昇していた。さらに大会が始まると、国内でジャンプが見られるとあって、予選の日からテレビカメラに追いかけ回され、大会当日には各テレビの情報番組でも取り上げられていた。2週間前の男子のW杯の時には「今日は何があるんですか?」と聞いていたタクシー運転手も、今回は宮の森ジャンプ台と行き先を伝えると「今日は沙羅ちゃんが出るんですね」と話しかけて来るほどだった。

 そして会場ではテレビカメラだけでなく、集まった3000人以上の観客に、一挙手一投足を見つめられるような状況だったのだ。それがジャンプに影響しないはずはない。

 渡瀬弥太郎コーチは「ジャンプ自体には何の問題もなかった」というが、彼女自身の笑顔は少なく、ファンに声をかけられた時に小さく微笑む程度。いつもの高梨とは明らかに違っていた。その心の中には戸惑いとともに、以前から口にしていた「ジャンプという競技はちょっとしたタイミングや体の動きのズレで飛べなくなる競技。今は良くても来年はどうなるかわからないもの」という、難しさを知るからこそ感じる競技への恐怖心もあったのだろう。

 2月9日からの蔵王大会に向けて「自分のジャンプを取り戻せるように頑張っていきたい」と気丈に話した高梨が、次はどんなジャンプを見せてくれるのか。さらに2月20日から始まる世界選手権では、W杯女王としてどんな成績を残すのか。「一番重要なのは精神力だと思う」と語る高梨の、ソチ五輪へ向けての成長を見守りたい。

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