【月刊・白鵬】モンゴル力士のパイオニア、旭天鵬との『絆』 (3ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 旭天鵬関は、旭鷲山さん(現・モンゴル国会議員)たちと一緒に、モンゴル人力士第1号として日本にやってきた、いわばモンゴル人力士のパイオニア。私もモンゴルにいた少年時代、テレビで旭天鵬関の相撲を見て「カッコイイなぁ」と心躍らせたものです。

 私が来日し、宮城野部屋に入門してからも、何かにつけて面倒を見てくれたのは、旭天鵬関でした。70kgそこそこの体重で入門し、なかなか太らない私を見かねて、焼肉やモンゴル料理の店に連れ出してくれました。お互いに頻繁に部屋を行き来して、稽古を一緒にしている間柄でもあります。私にとっては、優しくて温かい、本当の兄のような存在なのです。

 だから私は、「アニキ、がんばってくれ!」と祈るような気持ちで優勝決定戦を見つめていました。

 結果、“ベテランの味”とでも言うのでしょうか? さすが旭天鵬関は、ここ一番で強みを見せてくれました。優勝を決めて、花道を下がっていく旭天鵬関を部屋の関取衆、付け人たちがうれし涙を流しながら迎える模様が、テレビ画面に映し出されています。私も胸がいっぱいになり、自分の優勝以上にうれしかったです。

 お世話になったアニキに私ができること……、それは優勝パレードの旗手を務めることだと思いました。横綱が旗手を務めるのはいかがなものか? と言った声もありましたが、とにかくこれが私の精一杯の気持ちだったのです。

 千秋楽の打ち上げパーティーを終えた後、アニキの優勝を祝う力士たちが集まって、祝賀会が開かれました。

「本当によかった……、アニキ……」
 そう言って、私が改めて旭天鵬関に握手を求めると、
「まだ信じられないよ……。夢みたいだ。この年まで相撲を取っていて本当によかった……」
 と喜びを噛み締めるように、私を抱きしめてくれた旭天鵬関。美酒に酔いしれた最高の夜になりました。

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