【月刊・白鵬】横綱も絶賛する、新大関・鶴竜の「武器」とは? (2ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 優勝決定戦では、土俵上の我々にもお客さんの声援が地鳴りのように伝わってきました。超満員の大阪府立体育会館が、近年これほど盛り上がったことがあったでしょうか?

 結果は、私が何とか勝負をモノにしました。ホッとしたと同時に、ひとつの目標としていた貴乃花関(現・貴乃花親方)に並ぶ優勝22回という記録を達成できたことは、大きな喜びでした。

 優勝を決めたあと、モンゴルの父親から電話がありました。
「私は、おまえが絶対優勝すると信じていたよ」と言うのです。

 不思議に思って、その理由を尋ねると、父はこう答えました。
「だって、相手の鶴竜はこれまで16番も相撲を取ったことがないじゃないか」と。

 確かに、そのとおりかもしれません。通常のひと場所15番を取り終えて、さらにもう一番戦うというのは、力士にとってかなり大変なことなのです。これまで私は、幾度か優勝決定戦を戦って、ひと場所16番という相撲を経験してきましたが、経験がないと、力の配分や気持ちの持って行き方などがまったくわかりません。勢いだけで制することができるものではないのです。その辺りの難しさを、モンゴル相撲の横綱だった父は、自分の経験からも感じていたのだと思います。

 とはいえ、鶴竜は強かったですね。間違いなく力を付けていると思います。決定戦でも、私の寄りを土俵際で弓なりになってこらえて、また土俵の中央まで体勢を戻してしまうのですから。最後は上手投げで下すことができましたが、私も必死で、横綱と関脇の差を見せなければいけない、という意地だけで勝てたような気がします。

 それほど、鶴竜の粘り腰は「見事!」としか言いようがありません。まわしが伸びているのに土俵際で残せるというのは、地力がないとできないことです。相撲への取り組み方もとても真面目で、コツコツと努力してきたことが、今まさに開花しているのではないでしょうか。

 それと、彼の最大の武器は、土俵上で顔つきが変わらないという点です。つまり、常に平常心を保っていて、相手に気持ちを悟られることがないわけです。それは、勝負師としてとても重要なことで、本当に気持ちが強い人間でないとできないことだと思います。

 場所後に鶴竜は大関に推挙されました。これで、3場所連続で新大関が誕生し、大関が6人となりました。そこから誰が抜け出すか? 私も楽しみでなりません。

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