羽生結弦が決意表明会見で語った「より高いステージへの挑戦」。10年以上取材する記者が「これから」に期待すること (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 そういう外的要因に振り回されるのではなく、そんな制約から解き放たれて自由になってこそ、自由な発想で高難度ジャンプの構成も考えられる。そして、自分自身が作り上げたいプログラムを、理想とするフィギュアスケートを追求できるのではないかと考えたのだろう。だからこその、プロアスリート宣言なのだ。

「平昌五輪が終わったあとは毎試合、毎試合、新しいスタートをきりたいと思っていました。大会が終わる度に、『この努力の方向は間違っているのかな』とか、『本当に頑張れているのかな』などと考えながら競技をしていました。

 最終的な決断に至ったのは北京五輪から帰り、足が痛くて滑れなかった期間です。そこで『もう、このステージにいつまでもいる必要はないのかな』と考え、『よりうまくなりたい、より強くなりたい』と思って決断をしました。またアマチュアスケーターとして最後に滑らせてもらった"ファンタジー・オン・アイス"でも、改めて『より高いステージに立ちたい』『より、努力したことが皆さんに伝わるステージに立ちたいな』と思いました」

 そんな羽生は、現在も4回転アクセルの練習は常にやっているとも話した。「北京五輪前には4回転アクセルのためだけに努力していたと言っても過言ではない」とまで追い詰めた経験もあることで、現段階でも「もっとこうすればいいのでは」とか、「こうもできるな」という発想も浮かんで手応えを感じていると。またアイスショー出演中でも、「こういう視点があったんだな」というような発見が毎日のようにあって学べていて、自分への期待とワクワク感もあり、自分の伸びしろの大きさも感じている状態だと話す。

 羽生が今回決断したのは引退ではなく、自分のなかの、フィギュアスケーターとしてさらなる進化を求めるために、挑戦し続けようという思いに正直になることだった。そんな彼がこれから、どんな舞台でどんな演技を見せてくれるかと、見ている側も期待が膨らむ。

 彼に見せてもらいたいものはいっぱいある。音や表現のなかに高難度ジャンプを溶け込ませるような、シームレスな演技。さらにはその演技のなかで4回転アクセルが着氷するのも見たいし、北京五輪で予定しながらできなかったトリプルアクセル+3回転ループや、4回転フリップも演技のなかで見てみたい。

 そんな願いを彼が叶えてくれる日は、きっとくるはずだ。

Profile
折山淑美(おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。92年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、これまでに夏季・冬季合わせて16回の大会をリポートしている。フィギュアスケートの取材は90年代初頭からスタートし、2010年代からはシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追っている。

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