羽生結弦が北京五輪後、初の演技。フードで顔を隠して滑り始めた『Real Face』に込めた思いとは (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao / Fantasy on Ice 2022

 新たに挑んだ『Real Face』も、まさにそんな演技だった。フードを払って素顔に戻った羽生は、心にあるすべての思いやプライドを自分の滑りにぶつけているように感じられた。ハイドロブレーディングや『パリの散歩道』で見せたランジの変形、さらにイナバウワーと、彼の見せ場である技もすべて投入していた。

 さらにそのプログラムで跳んだ2本のジャンプも、彼自身、もっとも思い入れがあるアクセルだった。公演初日は1本目にミスをしたが、2本ともにトリプルアクセルにして挑戦していた。そして、2日目と3日目は、1本目をきれいなトリプルアクセルにし、2本目はシングルアクセルでしっかり決めるノーミスの滑りをした。

 オープニングの登場場面では軸の細いきれいな4回転トーループを決め、フィナーレのあとのジャンプ合戦では4回転トーループ+トリプルアクセルをきれいに決めるキレのよさを見せていた羽生。公演の公式パンフレットのインタビューでは、4回転アクセルへの今の思いを問われ、「まだまだ目指すべき存在です。何よりも力を注ぎきれるものです」と、挑戦継続の意欲も口にし、彼の戦いはまだ終わりではないことを示唆している。

 北京五輪後の初舞台で羽生は、次へ進もうとする彼の心の内をのぞかせてくれるような、熱い思い満杯の全身全霊の滑りを見せてくれた。

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