「鍵山優真を思うあまり保守的になっていた」。振付師・佐藤操が語る北京への道

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登直/JMPA●撮影 photo by Noto Sunao/JMPA

リモートを切ったらぶっ倒れた

―― そのローリーさんが振り付けをしたことによって、よくなった点があるとしたらどこだと思いますか?

「私もすごく反省していることですけど、優真のことをあまりにも知りすぎていて、ふだんの練習のコースをわかりすぎていたことで、そこにちょっと依存してしまったところがありました。今の優真はこんなによく滑るんだから、余計なことを入れないで本当にシンプルに見せたほうがいいと、ちょっと思いすぎていたんです。でも、ローリーは容赦がなかったんです。

『聞いてないわよ、そんなこと』って。優真のことは大事にしていましたけど、『サルコウを跳ぶ時こうなるのよね』と言ったら、『それは跳ばないとダメね』みたいな。『操、それではダメよ。もっといじめなさい』『もっと強く言いなさい』ということを言ってくださって、ハッと気づきました。私は優真を大事に思うあまり、保守的になっていた。私以上にローリーのほうが『あの子ならできるんじゃない?』という感じでした。

 初めてのプログラム作りが終わって、『じゃあね』と言ってリモートの画面を切ったあとに、優真が本当にぶっ倒れちゃいました、私はそこで身内根性が出て、『かわいそうに。こんなにやらされて』と思ってしまったのですが、私がバカでした。優真は弱音を吐いて、かわいいところを見せながらも、ちゃんと次の日には『あれっ、ちょっと間に合ってきたな』とか言うんです。私に見る目がなかった。容赦なくやったら何でもできるのは、やはりすごい才能だなと、ローリーとのやり取りを見て、私もすごく反省し、勉強になりました。

 こてんぱんになるほど練習させられ、シニアデビューの2020年の東日本選手権にギリギリ間に合うぐらいにフリーができたので、その大会はボロボロだったんです。それでも、彼はちゃんと目標を達成して、必ずそこでお披露目すると。鍵山先生も『よくこんな状況なのに最後までジャンプも油断せずに挑めてよかったよ』と言ってくれました。

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