坂本花織の五輪メダル獲得の夢を叶えた「努力の才能」。五輪前に語っていた表彰台への思い (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Kyodo News

コロナ禍での地道な努力

 2021年3月、神戸のポートアイランドでのインタビューだった。

「(2020-2021シーズンからコロナ禍で)リモートでの練習は大変でした。振り付けは左右が混乱して。どっち、どっちって」

 坂本は冗談めかして話していたが、これまで以上にスケートと対峙することになったと言う。

「1カ月半、リンクが閉鎖されていたので。陸のトレーニングメニューを中心に回転とか体幹とか、とにかくいろいろやりました。毎日、ランニングも1時間くらい。頑張った時は、10キロくらい走り込んで。そうやってトレーニングを続けていると、本当に早く滑りたいって思うようになりました。自分のなかでも、これだけ頑張って鍛え上げたんだから!って......。いざ試合が始まって、日本選手が安定した演技ができているなっていうのは実感するところがありましたね。みんな地道に頑張っていたというか。自分も自粛の間のトレーニングで頑張ってきた成果が出ているなって思っています。だから五輪ではあの時に頑張ってよかったなって思えるように、表彰台を狙っていきたいです!」

 その宣言は、振り返ると啓示的だった。坂本は、五輪シーズンに向けて栄光をつかむだけの準備をしていた。大胆で野放図にも見えるが、本来は細心でデリケートな女性と言えるだろう。たとえば、2019年の全日本選手権では何もかもうまくいかず、失意の6位に終わった。そこで言い訳もせず、虚勢も張らず、しょげ返って涙が止まらない様子をさらけ出す姿は、スケートにかける思いの深さを示していた。

 代名詞となった雄大で馬力のある演技は、そうやって培ったものだ。

「(坂本)花織は昔、ナショナルトレーニングセンターで瞳孔が開くまで練習をやってしまったことがあって。やって来た救急車の人たちも驚いたことがありました」

 中野園子コーチは坂本のポテンシャルについて、そう説明していた。

「普通の子は、疲れたら動かなくなるんです。でも花織のような選手になると、少々苦しくなっても、それ以上にできてしまう。倒れた時は、完全に意識が飛んでいました。そこまで追い込めてしまうのは、才能だと思います」

 坂本は、思うままに滑っているように映る。しかし、ぶつかって打ちのめされても諦めず、限界を超えるために力を振り絞ってきた。それが世界女王の原点だ。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る