樋口新葉は4年前とここが違う。五輪代表の座をたぐり寄せたトリプルアクセルとメンタル (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【自己ベストにつながる精神的な成長】

 SPが終わった時点で、2位から5位までの得点差はわずか1点。勝負の行方はフリーの出来次第という状況だった。ミスを出したら脱落するという接戦のなかで、樋口もまた極度の緊張を強いられて戦ったという。だが、そんな状況をも想定して、いいときも悪いときもあることを受け止め、そこでどんな行動をするべきかを普段の練習からシミュレーションをして、メンタルトレーニングや対処法に取り組んできたことで、どんな状況にも動じない自分を作り上げてきたことが功を奏したという。

「オリンピックに挑戦するのは今回で最後だと思いながら、自分で強い気持ちを持って臨んだ大会でした。今シーズンは全日本のためだけにずっと頑張ってきて、ここで一番いい演技が出せたということは、4年前と比べものにならないくらい力を発揮できましたし、精神的に成長したなと感じた試合でした」

 フリーの結果は147.12点の2位で、合計221.78点の総合2位を死守。国際スケート連盟(ISU)非公認の記録ながら、これまでの自己ベストを大幅に上回り、フリーで6.08点増、合計では14.32点もアップした。

「フリーで目標にしていた点数が140点だったので、大きく超えられたのはよかった。いままでの自己ベストでこの試合を終えられたのでそれもすごくほっとしました」

 有力候補だった平昌五輪代表を逃した4年前のシーズンは、序盤から好調だった。GP2大会でも活躍してGPファイナル進出も決めた。しかし、肝心の最終選考会である全日本選手権で失速して自滅。SPでジャンプミスを出して4位発進すると、フリー前日の公式練習で右足首を痛めるアクシデントに見舞われた。フリー本番ではけがの影響が響き、ジャンプをしっかり跳べない状態での戦いを強いられ、総合4位に沈んで選考レースに敗れた。

 この悔しい経験と教訓を生かして、2度目の五輪シーズンを戦う今季は、全日本選手権まで万全の状態で臨むことが樋口の最大の目標だった。だからこそ、昨年から続くコロナ禍のなかで自分の身体と気持ちに真剣に向き合ってきた。

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