ショックだった鍵山優真を奮い立たせた父の言葉。イタリア杯でみごとな逆転優勝 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Getty Images

 自身でも「最近では覚えがない」というSPでの大崩れ。ショックは大きかった。切り替えは想像以上に難しく、落ち込んだ気持ちは一夜明けた朝の公式練習にまで引きずった。だが、練習のあとで、コーチでもある父・正和氏に「立場や成績は関係なく、ただひたすら練習してきたことを頑張るだけだ。やることを思いきってやれ」と言われて心が定まった。

 勝負をかけたフリーで鍵山は、4回転ループを封印してレベルを落とした構成で臨んだ。それでも滑り出しは硬さがあった。彼らしい踊るようなスケーティングは少し影を潜め、ジャンプだけに集中している印象の滑りだった。そのなかで最初の4回転サルコウは少し尻が落ちる着氷になったが、そのあとの3回転ルッツと4回転トーループ+3回転トーループ、トリプルアクセル+1オイラー+3回転サルコウは完璧なジャンプにした。

「昨季からやっている4回転3本の構成なので4本より不安はなかったが、後半に4回転があったのですごく緊張していた」というように、後半最初の4回転トーループはしっかり決めたが少し尻の下がる着氷になった。

 だが続く3回転フリップ+3回転ループとトリプルアクセルは安定したジャンプにすると、そのあとのコレオシークエンスからいつものような軽やかな動きを取り戻し、終盤の2種類のスピンもスピードと迫力のある滑りで締めた。結果は昨季の世界選手権を7点弱上回る197.49点を獲得。合計は278.02点。SP4位から追い上げてきたミハエル・コリヤダ(ロシア)を4.47点抑えて優勝し、12月のGPファイナル進出へ向けて大きく前進した。

「アドレナリンがたくさん出て試合モードだったので途中のことは覚えていませんが、ジャンプが一つひとつ跳べるごとに、『やれるぞ!』という気持ちが湧いてきて、最後のアクセルのあとは『終わった』と思って笑顔が湧いてきました。今日はひたすら頑張ろうとしただけで点数や順位は気にしていなかったけれど、優勝できてうれしい。ただこのプログラムも本来は4回転ループを入れた構成なので、次のフランス大会ではショートをちゃんとやって、フリーでは思いきり滑れるようにしたいです」

 フリー後、明るい笑顔を取り戻した鍵山。このGPシリーズの勝利で、世界のトップを追い求めるために必要な大きなヤマを、ひとつ乗り越えたと言える。

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