羽生結弦のメンタルコントロールのすごさ。世界最高得点を連発した当時の思い (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 度重なるアクシデントに見舞われた前シーズン、羽生は「体としてはマイナスかもしれないが、精神的にはプラスになっている」という言葉を口にした。現実を受け入れる諦観(ていかん)にも似た思いと、進化への挑戦ができないもどかしさが交錯した。そんな状況で自分を鼓舞して勇気づける言葉でもあった。

 前シーズンに実現できなかった演技構成にあらためて挑戦したこの15-16シーズンだったが、オータムクラシック、スケートカナダと2試合連続でミスが続いた。そこで気づいたのは、「前シーズンに挑戦するはずだったプログラムに挑戦できなかった」という過去にこだわっている自分だった。

 そのわだかまりを吹っ切るために選んだのが、SPの演技後半の4回転ジャンプをやめて、2種類の4回転を入れる新たな構成だった。それがNHK杯での自身初の、『バラード第1番ト短調』のノーミスの演技につながった。一気に解放された羽生は、GPファイナルでは、SPを振付師ジェフリー・バトル氏の『バラード第1番ト短調』から自分の表現へと昇華させたのだ。

 しかし同時に、歴代世界最高得点という成果は羽生に試練も与えた。「さらなる期待に応えなければ」とのプレッシャーと、積み重なった疲労だ。これまでのGPシリーズとは違い、SPからフリーまで中1日空くスケジュールで、羽生はSP翌日の公式練習でどこか気持ちが入りきっていないように見え、フリー当日の練習でも、4回転トーループに若干の不安定さがあった。

「練習は見た目にはよかったかもしれないけれど、自分の中では感覚がつかみきれていないところがあって、すごく不安だったんです。それに加えて前の選手のいい演技が、自分を追い込んでいた。でもよかったのは、今回も『本当に不安なんだな。できるかなと思っているな』と自分で気づけたこと。それでノーミスでなくてもいいから、一つひとつ頑張ろうという気持ちになれました」

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