羽生結弦が「観客」に伝えたい思い。フリーへ向けてふくらむ期待 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 田口有史●撮影 photo by Taguchi Yukihito

 そう自己評価した演技の得点は106.98点と、周囲の期待ほどには伸びなかったと言えるだろう。

 技術点は自己最高の111.82点を出した2020年の四大陸選手権と比べれば低かった。4.43点と4.21点のGOE(出来ばえ)加点を得た4回転サルコウと4回転トーループ+3回転トーループは、今回は2.22点と2.99点。特に4回転サルコウは加点も2点と3点がほとんどで、2名のジャッジは0点をつけた。いつもより氷片を多く巻き上げる着氷になったことが、その評価につながったのかもしれない。コロナ禍でコーチがいないひとりだけの練習で作り上げたプログラムであり、試合で演じるのはまだ2回目。完成度を高め切れていないという事情もある。

 羽生の3人後に滑るネイサン・チェン(アメリカ)は、1月の全米選手権では非公認ながらSPで113.92点を出していた。彼が110点近くを出してくる可能性は高く、リードされる可能性はあった。

 だが、チェンは最初の4回転ルッツの回転が4分の1足りず、転倒するスタート。その後もスピードに乗らない滑りが目立ち、トリプルアクセルは決めたものの、フライングシットスピンでは途中でよろけるいつもにはないミスもあった。演技後半で4回転トーループ+3回転トーループを、基礎点が1.65点高いフリップ+トーループに変えて成功させたものの、結果は、初の100点台に乗せた鍵山優真にも及ばない98.85点の3位にとどまった。

 羽生は18年平昌五輪後の世界選手権とグランプリファイナルでの2回の戦いで、チェンに敗れた。ともに羽生にSPでは勝利を意識する気負いが見え、空回りする形でミスをして大差をつけられる展開だった。だが、今回は8.13点差をつけて27日のフリーに臨むことになる。

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