宮原知子が見せた圧巻の表現力。「ずっと自分と向き合ってきた」 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by JMPA/Enomoto Asami

 ただその一方で、大幅加点も少なかった。宮原本人もジャンプの改善や修正について「ジャンプはそんなに良くない。まだまだ課題ばかり」と、道半ばの段階にあると自覚していた。

 得点源になるジャンプの課題をクリアするにはもう少し時間がかかりそうだが、表現面での成長は目を見張るものがあった。

 今回のアイスショーのアンコールで披露した『トスカ』の見せ場であるステップからレイバックスピンまでの終盤の演技は、何度見ても圧巻の迫力あるものだった。滑り込めば滑り込むほど洗練され、熟成度も増してくるはずで、演技構成点の得点もさらに積み上げられるはずだ。全日本選手権ではSP、フリーともに、ステップと3つのスピンでいずれも最高のレベル4を取ったのは宮原ただひとりだけだった。

「今季はここまで自分に集中して練習してきました。試合がなかった中で自分なりにやって来て、(全日本選手権で)思い切り演技ができてよかったです。スピンはこれまで以上に速く回ることを意識して、たくさん練習した成果を出せました。フリーのステップは踊り負けないように滑り込んできました」

 シニア転向後、何度も殻を破って成長を遂げてきた。念願だった平昌五輪では、総合4位と表彰台まであと一歩だった。「練習の虫」と言われるほど膨大な練習量をこなしてきたが、年齢を重ねて、量よりも質を重視する練習方法に変えてきたという。自分を見つめて自己分析する能力が高い宮原。だからこそ、もっと自信を持って試合に臨み、さらに殻を破って変貌を遂げてもらいたいものだ。

 イレギュラーなシーズンとなった2020年は、宮原にとっては自己観察の年だったという。

「2020年を漢字一文字で表すなら『観察』の『観』です。ずっと自分と向き合って自分と会話してきた1年でした。そして、あらためてフィギュアスケートの良さを知りました」

 トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)や4回転ジャンプを跳ぶ新時代を迎えた女子フィギュアスケート。そんな中で自分らしい演技を追求する宮原はどんな戦いを見せていくのか。北京五輪を控える来季に注目したい。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る