羽生結弦、5回目の全日本選手権優勝で見せた未来への強い意志 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 濃霧の中で武田信玄の本陣に切り込んだ「川中島の戦い」を舞台にし、上杉謙信の心の移ろいを描こうとした。そのために自分で選曲し、自分で編集もした。心を込めながら、スケートと合わせたうえで成り立たせた曲。完璧に演じるために、ジャンプ構成も変えた。基礎点が1.1倍になる後半に連続ジャンプを集中させるのが羽生のポリシーでもあるが、前半3番目のジャンプをトリプルアクセルからの連続ジャンプにしていた。その理由をこう語った。

「はじめは、(前半3本目と4本目のジャンプの部分は)単発のトリプルアクセルと単発の3回転ループか3回転ルッツと考えていました。でも、あそこから琴の音が始まっていて、それが何か風が舞い上がるような感じの音だという感覚があったので、そこをトリプルアクセルと両手を上げる2回転トーループにして、そのままの勢いで3回転ループにいけば、風を意識させる表現としてのジャンプになってくるかなと思ったので、今回は前半に連続ジャンプを持ってきました」

 羽生は、自身の思いが詰まったプログラムで215.83点を獲得。合計を319.36点にし、5年ぶりの優勝を果たして昨年の悔しさを晴らした。

 コーチ不在の中でさまざまな悩みを持ちながら、そして自分自身の心の中の葛藤とも戦いながら出場した全日本選手権。その舞台での初披露でノーミスの演技をした『天と地と』からは、彼自身の「新しい自分の代表的なプログラムに育て上げていく」という、強い意志も伝わってきた。

羽生結弦『全日本フィギュア2020』フォトギャラリー 【10枚】

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