八木沼純子はフィギュアの奥深さを14歳で知った。見惚れた女王の演技 (3ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by AFLO

 ただ、オリンピック本番での3日間の試合を通した強さを比較すると、最後のフリーでのここぞという強さを、カタリーナ・ヴィットは持っていたのではないでしょうか。フリーの滑走順はヴィット選手よりもトーマス選手があとで、ショートプログラム1位のトーマスはそのまま勝ち逃げるチャンスも残っていましたから。

 ヴィット選手の『カルメン』の振り付けは、演技が始まる最初のポーズから好きでした。戦いに挑んでいくアスリートなのですが、音が鳴った途端、カルメンになりきった表情とポーズが、音楽と調和されヴィット選手のカルメンの世界にいざなってくれているようで、振付ももちろんですが、本当に自然に「カタリーナ・ヴィットがカルメンだったらこうするだろうな」という空気感を纏っていました。

 彼女のどのプログラムでもそうでしたが、この『カルメン』は「私が女王」というその存在感に、鳥肌が立つほどでした。当時から衣装などヴィットスタイルが際立っていましたが、衣装からヘアスタイルまで、トータルコーディネートも凄かった。衣装のデザインも当時のフィギュア界では個性的だったと思います。

 あるとき、『カルメン』を「どういう思いで滑っているのか?」というインタビューを受けていたヴィット選手は「会場にいる自分の好みの男性(を見つけて、その人)のために滑る」と話していました。

 少しニュアンスが違うかも知れませんが、そのコメントを聞いて「フィギュアスケートって奥が深いな」と、当時、10代だった私は思ったものでした。与えられたプログラムを正確に音に合わせて滑れるかどうかの戦いしかしたことがなかった14歳の私には、そこまで考える想像力はまだまだありませんでした(笑)。

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