八木沼純子はフィギュアの奥深さを14歳で知った。見惚れた女王の演技 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by AFLO

 振付師も、より演劇に近いつくり方をしていたのではないかと思います。演出や4分間をカルメンとして自由奔放な魔性の女性の生き方が終わりにも表れ、よりドラマティックな効果がありました。24歳のヴィット選手が演じた『カルメン』は、そういった意味でもとても印象に残っています。

 トリプルジャンプを5種類跳んだりすることはないし、3+3の連続ジャンプは入れていません。でも、曲全体の作り方や演技構成の起承転結といいますか、最初に鐘の音から始まり、物語が展開されていって、最後はホセに刺されて氷上で花が散るように終わっていく。

 そのプログラムの作り方と音楽の構成が、あの当時まだ10代だった私には印象が強く、だからこそ、いまでも心の中に残っているのではないかなと思います。

 このプログラムには、いろんな話題もありました。カルガリー五輪シーズンは、ヴィット選手と金メダルを争った米国選手のデビー・トーマス選手も同じ『カルメン』の曲を使っていました。

 普通ならライバルと同じ曲は避けるところを、敢えて同じ曲で対決するという対抗心は、ある意味、すごいですが、それぞれ音の構成も魅せ方も違う。表現力に定評のあるヴィット選手も、しなやかなスケーティングとジャンプが得意だったトーマス選手も、それぞれが勝てる自信と計算があったからこそ、同じ『カルメン』で戦ったのだと思います。

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