羽生結弦はチェンとの死闘でまた一歩強くなった。目指すべき道が明確に (6ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 この挑戦の疲労が色濃く残っていた全日本選手権では、SP2位の宇野昌磨に逆転されて4年ぶりの勝利はならなかった。だが、その敗戦をきっかけに、羽生はまた新たな決断をした。自分らしさを存分に発揮するフィギュアスケートでネイサン・チェンと戦ってみよう、とプログラムを『バラード第1番ト短調』と『SEIMEI』に変更したのだ。

 その披露の場となった2月の四大陸選手権で、選曲の理由を羽生はこう話した。

「たしかに今季の『オトナル』(秋によせて)はよかったし、カナダの『Origin』もよかったんですが、自分の演技として完成できないと思ったんです。あまりにも高い理想にしていたものは、僕自身ではなく、プルシェンコさんやジョニー(・ウィアー)さんの背中だったと思うんです。それを、メダリスト・オン・アイスで『SEIMEI』をやったときにあらためて感じました。あの精神状態だったからこそなのかもしれないけど、もう少しだけこの子(楽曲)たちの力を借りてもいいのかな、と思いました」

 そんな思いで演じたSPは完璧だった。音の中にスッポリ入り込んだような3本のジャンプは、ジャッジのすべてがGOE(出来栄え点)で4点と5点を並べる完璧な内容。

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