髙橋大輔には、優しさを極めて身につけた「強さ」がある (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 髙橋は大会前に語っていた。その挑みかかる気持ちで、これまで翼を授けられてきたのだろう。その日、表彰台に立つ奇跡は起こらなかったが――。

 シングルスケーターとして最後の舞台、髙橋は生き様を示した。

 髙橋は優しさ、善良さが際立つアスリートと言えるだろう。生き馬の目を抜く勝負の世界では、珍しい存在と言える。34歳になっても、驚くほど世間ずれしていない。

「僕はお金っていうところではモチベーションは上がらないです。周りからは『稼がなきゃいけない』と言われるんです。もちろん、食べられないのは困りますけど、贅沢しなくていいから楽しい仕事を......いや、仕事っていう感覚が持てなくて(笑)」

 髙橋は、ほのぼのとした顔つきで言う。

 もっとも、彼が求める楽しさとは、怠惰と同義ではない。むしろ反意語で、スケートに対しては限界まで肉体を追い込む。一切、手が抜けない。たとえば、アイスショーをやり終えた翌日のインタビュー、部屋に入ってきた直後の彼は、まるで幽鬼のようだった。妥協なく、絞り込んだ証だ。

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