全日本は不本意な結果も、宮原知子のスケートの本質は不変だ (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 そしてフリーの「シンドラーのリスト」は、宮原のハイライトになるはずだった。「絶望の中でも生きる姿を表現する」。その難題を扱えるのは、彼女のスケーティングだけだった。悩ましげな表情と動きで滑り出し、冒頭のダブルアクセルは華麗に決めた。次の3回転ルッツ+3回転トーループも回転不足は取られたものの、悪くはなかった。

 ところが、そこから精密な滑りに狂いが出た。

「最初はよくて、"いける"って強気だったんです。でも途中から、(調子がよすぎて)やばいって思い始めて......。ループでは練習でしない失敗をしてしまった(3回転ループが2回転ループになるミス)。世界観を表現したかったですが、あまりに出来が悪すぎて」

 宮原自身、戸惑うほどの演技だった。3回転サルコウ、3回転フリップ+2回転トーループ+2回転ループ、3回転ルッツ、ダブルアクセルとすべてのジャンプで回転不足を取られた。

「(回転不足になった)ジャンプの跳び方は大きく変えていません。いい時は回転がつくのですが......。練習ではうまくなっているし、技術的にはよくなっている感触はあります」

 カナダで日々身につけ始めたものは、全日本ではまだ成熟していなかったのかもしれない。しかし新しい環境に適応し、力に変換するには時間がかかる。そのプロセスに立っているとすれば――。

「今回、(3月、カナダ)世界選手権の代表選手として選んでもらって、とてもラッキーだと思っています。自分のできるすべての力を使って、頑張りたいです」

 宮原はそう言って、視線を先に見据えていた。

 今回のフリーの演技構成点は69.09点で、参加選手中2番目に高い点数だった。土台となるスケーティングは、やはり他の追随を許さない。誰にもない"大技"と言える。

 宮原知子のスケートの本質だ。

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