全日本は不本意な結果も、宮原知子のスケートの本質は不変だ (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「今までは不安を消すために、ひたすら跳び続けてきました。自分の気持ちが落ち着くまで。でも、(カナダでの指導では)いいものを何本って決めてスパッとやめる。いいイメージで終わるのも大事だな、と思えるようになりました。最初は練習量が少ない気がして何となく不安でしたが、先生(バーケル)に『いいよ』と言われると大丈夫なのかなって」

 10月のジャパンオープンで、宮原はそう話していた。より濃密な練習になって、トレーニングの質は上がり、練習での精度は高くなった。

 しかし、グランプリシリーズでの成績は出ていない。完璧に近い練習での演技が試合で崩れた。中国杯は2位も、ロステレコム杯はSPのミスが響き、4位。4年連続で出場していたグランプリファイナル出場を僅差で逃した。

「今年は去年以上に、全日本が早く来た気がします。(理由は)納得できる演技はできていないので。いい締めくくりができるようにしたいです」

 全日本を前に、宮原はその胸中を明かしていた。

「プログラムを通して練習して、ジャンプは調子がいいです。滑り自体は滑り込めてきたと思うんですが。練習ほど試合でいい演技が出ていなくて、本番が課題です」

 SPは渾身の演技で、その世界観を表現し、観衆を虜にした。演技構成点は、平均で9点以上をたたき出すほどだった。滑りを芸術の域に高めていた。

「ジャンプは回転不足で、70点台行くかなぁ、と思っていたんですけど、ぎりぎり出てよかったです。ただ、点数よりは、今までやってきたことが本番で出せてよかった。グランプリシリーズでは出せなかったので。フリーはフリーの世界観があるので、それを出せたらと思っています」

 宮原は一つひとつの言葉を真摯に紡いで、その様子は彼女の精巧なスケートに似ていた。

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