髙橋大輔、シングル引退。ハビエルが語った「1位でも、ビリでも、成功」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「僕も日本でチャンピオンになって世界で戦ってきて、そのプライドはありましたけど、それを捨てられて。本当は恥ずかしくて惨めかもしれないし、できないのはわかっていました。でも、(復帰して)やっていく中で、経験できたことも多かったです。33歳でスケートやっていてもいいんだよ、って少しは見せられたかなって。最後は、情けないな、ごめんなさい、っていう気持ちですけど」

 彼はそう言って頭を下げたが、その真摯さに人は胸を打たれるのだ。

 マイナースポーツの域を出なかったフィギュアスケート男子を、髙橋は牽引してきた。2010年バンクーバー五輪では銅メダル、同年の世界選手権では日本人男子として初めて優勝した。そして昨年は4年ぶりに復帰し、全日本で2位。今シーズンも、33歳でリンクに立つ姿を見せた。

 最後の全日本は総合で12位だが、その姿は眩しかった。

 同じ元世界王者のハビエル・フェルナンデスに、髙橋の現役復帰について訊いた時、啓示的な言葉を口にしていた。

「それぞれの人に、それぞれの決断があるよ。(髙橋)大輔とは長い間、話をしていないけど、彼は気さくでいい男だよ。めちゃくちゃ、尊敬している。彼が戻ってきたのは、それだけの理由があると思う。きっと、衝動があったんだろう。だから、絶対に失敗はしない。繰り返す、絶対に、だ。なぜなら、あれだけのことを成し遂げた大輔が決断したんだから。1位であろうと、ビリであろうと、それはすでに成功なのさ」

 髙橋は、シングルスケーターとして至高のフィナーレを飾った。2度目のアンコールはないだろう。来年からは、アイスダンス転向が決まっている。

「もう、(シングルは)ムリっす!」

 快活に言う髙橋は、戦い尽くした男だけに許される健やかな顔つきになっていた。  

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