髙橋大輔、シングル引退。ハビエルが語った「1位でも、ビリでも、成功」 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「(ショートプログラムに選んだ「The Phoenix」はアップビートで)力の配分が難しくて。どこか痛くなると、かばっているうちに、次はまた別のところって、体にきちゃいました。例えば朝から(の練習は)テンション的にも厳しかったり......。まあ、なかなかやろうと思わない曲なんで」

 髙橋はそう言って笑ったが、ダメージは相当だった。

 フリー当日の公式練習、髙橋は曲かけでポーズだけはとったものの、ジャンプは一本も跳んでいない。それどころか、リズムをとったり、コースを確認することもなく、クールダウンに使った。そして曲の途中で中心に戻って挨拶し、足早にリンクの外へ出た。

 髙橋は残ったエネルギーを、すべてフリーにぶつける気だったのだ。

 フリーの「Pale Green Ghosts」が流れる直前だった。

「大ちゃんガンバ!」

 その声援を聞いた髙橋は、ふっと短く息を吐いている。全力を出す準備を整えるように。そして冒頭の3回転フリップは、渾身で着氷した。世界王者になった男の意地だ。

 しかしトリプルアクセル+2回転トーループの後者が乱れると、3回転サルコウは成功も、トリプルアクセルはダウングレードだった。3回転ルッツ+2回転トーループもエッジエラーで、3回転ループは決めたが、最後の3回転フリップは転倒した。倒れそうで、倒れない姿に自負心を感じさせたが、それすらも打ち砕かれる。

 フリーは10位に終わった。

 ただ、髙橋らしさも見せている。そのスケーティングは全盛期に匹敵するほど、迫真だった。流れる曲を体の動きとエッジで表現し、音を掬い取っていた。事実、演技構成点は85.28点のハイスコアで、参加選手中3位だった。

「次(のジャンプ)、次って必死すぎて。なんとかしなくちゃって、どうにもできなかったです。自分をずっと応援してきてくれたファンの人たちは、こんな髙橋は見たくなかったかもしれませんが」

 演技後、髙橋は無念を語った。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る