2019.12.10

羽生結弦は前を向く。トリノで語った4回転アクセルへの思い

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 たぶん、試合であの構成をノーミスでできる可能性は不可能に近かったから、それだけに懸けても勝てない。だったらここで、自分のやるべきことをやろうと。自分がやるべきことは4回転ルッツをしっかり跳ぶことだし、ここで4回転アクセルを完成させたいという気持ちでした」

 4回転アクセルの練習自体、10月のスケートカナダから11月のNHK杯までの間に1、2回やっただけでしばらくやっていなかった。その練習では回転が足りないジャンプも多いため、ケガをしてもおかしくない着氷になったり、転倒するリスクもあり、普段でも練習をするときは覚悟を決めている。また試合中の公式練習だからこそ、気合いが入っていつもより体が浮き上がる。1年前のロステレコム杯でケガをしたのと同じような状況になり、ケガをするリスクもあった。

 さらに、毎日続けられないほど体力も使うので、その練習で無理をして力を出し切れば、翌日のフリーまで体力が持たないのもわかっていた。そんなリスクを承知しながら実行した羽生は、「この大事な試合のすべてを、4回転アクセルの練習に懸ける」覚悟だったという。

 そこまでの決意をさせたのは、2006年に五輪が行なわれたこの会場が、羽生にとって特別な、憧れの地でもあったからだ。そこであっさり負けたまま、何の爪痕も残せないで終わるということが許せなかったのだ。

 そんな思いを抱えて臨んだ8日のフリーは、コーチが来てくれた安心感とともに、これまでとは違って「ノーミスでなくてもいいんだ」という気持ちも持てて吹っ切れていた。だからこそ、絶対跳びたいと思う最初の4回転ループと4回転ルッツに集中できた。結局、そこに体力の多くを注ぎ込むことになり、演技の最後にはミスをしてしまった。それでも終わったあとに明るい表情でいられたのは、そんな吹っ切れた気持ちで臨めていたからだろう。

「終わってみれば、本当にいろんな気持ちはありますね。正直、できれば今回はこの構成をやるような状況になりたくなかったけど、一応練習をしておいてよかったなと思います。でも練習の回数としたら、通しでは1回やったくらいでした。ただ、アクセル+アクセルにするつもりはなかったし、4回転トーループから3回転フリップへの3連続ジャンプもやるつもりはなかったけど、その時の練習では一応ノーミスはできている。だから頑張れるとも思ったけど、やっぱり試合はたいへんだったなと思いました。

 4回転ループと4回転ルッツが跳べるようになったのはすごく大きな一歩だったけど、それと同時に、もっとつなぎの部分であったり、音楽であったり、表現であったりを高めていきたい。『自分がスケートをやっていて腑に落ちていないな』というようなことを考えながら、昨日の夜を過ごしていました」