高まる芸術性。ザギトワはファイナルで見る人を幸せにする (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「ケガ、成功、失敗......いろいろあるけど、結局大事なのは『練習』ということに気づきました」

 そう語るザギトワは、高い集中力で練習に臨み、あとは天運に身を任せ、五輪のフリーに挑んだという。試合まで何も手につかないほどだったが、プログラムが始まった時、余計な感情は消え失せ、無心に近い状態になった。

 結果、コンビネーションジャンプを失敗したにもかかわらず、その後の3回転ルッツでもう一本ジャンプをつけるという奇跡的な芸当をやってのけた。

 練習に、ザギトワの真実はある。

 NHK杯の練習でも、誰よりも先にリンクに飛び出し、最後までリンクに立っていた。入念に何度も何度もジャンプをチェック。跳躍せず、コンビネーションジャンプの感覚を確かめながら、イメージを深めていた。たとえばプログラムの中、失敗してもどうリカバリーするか。失敗もイメージすることで、その時にパニックにならず、冷静に対処できるのだ。

 練習の積み重ねが、試合の一瞬で出る。

 ザギトワの父親はかつてアイスホッケーで名の知れた選手で、その後は監督になったが、娘の試合を目にしたことはなかったという。試合より練習に本当の姿はあるということか。唯一、平昌五輪の金メダルを手にした試合は見て、すぐに連絡を入れたそうだが、同じフィギュアスケーターでもある妹は五輪の試合中、自分の練習に打ち込んでいたという。

 日々をどう生きるか――。そうした一家で生まれ育ったことが、ザギトワの演技に影響を及ぼしているのかもしれない。ひとつだけ言えるのは、彼女のプログラムが優雅で、それは鍛錬なくしてはあり得ないということだ。

「フリーは満足のいく演技でした。ショートは納得いかなかったので、とてもよかったと思います」

 NHK杯が終わったあとの会見で、ザギトワはそう言ったあと、何か言葉を続けようとし、躊躇い、静かにマイクを置いた。頂点を極めてきた選手にとって、3位で自らの演技を語ること。それは美しくないと考えたのか。

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