敗れた女王ザギトワが見せたプライド。
「見ていて幸せになる演技を」

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 フリー『クレオパトラ』はプトレマイオス朝エジプトの最後の女王で、その美しさとオーラは今でも語り継がれている。ザギトワもそれを継承するかのように、細部にわたって気を遣ったメイクを施し、ゴージャスな黒のコスチュームには金銀などの装飾がつく。姿形はどこから見ても女王然としていた。

 NHK杯の演技内容について言えば、3回転ルッツ+3回転ループの高難度ジャンプを跳んでGOE(出来ばえ点)で2.02点の加点がつき、3回転ルッツにも2.11点の加点がついた。だが、コストルナヤと比べると技術的な難度が低いため、GOE加点もそれほど出ておらず、ステップとスピンのひとつで最高レベル4を取れずにレベル3にとどまるなど、取りこぼしも散見された。それでも、ただひとり演技構成点の5項目で9点台を並べて73.84点のトップだったのはさすがだった。

 これで3年連続GPファイナル出場を決め、2年ぶり2度目の優勝を狙うことになるザギトワ。コストルナヤをはじめ、スケートアメリカと中国杯を制したアンナ・シェルバコワ、スケートカナダとロシア杯を制したアレクサンドラ・トゥルソワという強敵3人との勝負が待っている。すでに国内選手権では敗北を喫しているが、どんな戦いを見せるのか。

「GPファイナルでの私の目標は、アリョーナ(・コストルナヤ)が言ったのと同じで、美しくきれいに滑ること、最大限持っている力を出すこと、そして観客を喜ばせること。もちろん、観客の皆さんは誰も、私たちが苦しむ様子を見たいとは思っていません。なので、みんなが楽しくなって、うれしくなって、幸せになるような演技をしたいと思っています。そして、軽やかに滑りたいと思っています」

 ファイナルへ向けての抱負をすまし顔で語ったザギトワの目に、静かな闘志がメラメラと燃えているように感じられた。





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