恐るべき完成度で優勝。超然としたコストルナヤが見せた16歳らしさ (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 シニア1年目とは思えないほど、老成した物言いだった。棘というか、毒気こそ感じさせる。しかし、離れがたい魅力も放つのだ。

「トリプルアクセルの(失った)3点があったら、世界記録が出ていたかもしれません。でも、それは出ていないので。(仮定の話に)コメントは控えるわ」

 コストルナヤは簡潔に言った。彼女にとって、「たら・れば」などなんの価値もない。勝利の算段を緻密に立て、それを実務的にやり遂げた。それがすべてだ。

 大会を通して、コストルナヤはどこか超然としていた。16歳にはとても見えない。開幕の前日練習では、むしろジャンプはアクセルで転ぶなど不調に見えたが、限界でも探っていたのか。仕上がりは格別だった。ロシアのクラブの同門で"新種"の選手のように4回転を跳ぶトゥルソワ、アンナ・シェルバコワより、滑りは大人びている。その完成度の高さは、むしろザギトワに近いだろうか。

「コストルナヤ選手は、トリプルアクセルも飛べるし、コンビネーションジャンプがすばらしい。安定感があって、どのジャンプも加点がつく。(彼女と)比較して、自分もまだまだ伸ばしていきたいなって思いました」

 紀平はフリーの演技後、コストルナヤについてそう語った。刺激を受けるライバルなのだろう。

 一方、自分への賛美を、コストルナヤ自身は手元のスマートフォンを気にしながら聞いていた。

「シーズンが始まる前は、このような結果(グランプリシリーズのフランス杯、NHK杯で優勝)を少しも予想していませんでした。ただ、自分を、自分の演技をみなさんに見せたかっただけで」

 殊勝に言ったが、負けることなど考えていなかったように映る。それを裏付けるような一幕があった。

「もう、足が疲れちゃったの。早めに終わってください」

 テレビのインタビューを受けたあと、ペン記者の対応をする前に、平坦な声で通訳にそう伝えていた。NHK杯の優勝は、一つのプロセスにすぎないなのだろう。12月、イタリアのトリノで開催されるGPファイナルで頂点に立つために。もっと言えば、そのスケーティングを歴史に残すためだ。

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