紀平梨花は4回転時代を恐れない。NHK杯でロシア勢とガチンコ勝負 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 前日練習、フリーの使用曲「International Angel of Peace」を流した練習で、紀平は冒頭の4回転サルコウを失敗している。しかし練習中に再び挑み、これを成功させた。その完成度を高めているプロセスにある。

 10月のジャパンオープン、4回転サルコウをお披露目する可能性もあった。ただ、その時は朝の練習の段階で、思うように着氷できず、断念した。それでも、4回転ジャンプを取り入れることに躊躇いはなく、精度を上げてきたのだ。

「(勝つために)4回転サルコウも必要になると思います」

 紀平は、敢然として言っていた。4回転でほかのジャンプの精度が低くなる、そんなネガティブな発想はなかった。勝つために着々と準備をし、自分の可能性を広げてきた。

 おっとりして愛らしい表情を見せるが、自分と真正面から向き合い、その殻を破れる強さがあるのだ。

「(10月の)スケートカナダでも、自分の中では仕上がった試合になってきた感覚があるので。それ以上に練習を積み重ねて、ショート、フリーどちらも曲に慣れてきたなと思います。(新しい)衣装は二人に作ってもらいました。今回はショート、フリーで2枚ずつ作ってもらって、その一つを選びました」

 紀平はそう言って、小さく微笑んだ。

 新たな挑戦は、プレッシャーになるのかもしれない。トリプルアクセルを大きな武器にする彼女が、それに集中するのは一つの戦い方だろう。ただ、一流のアスリートは「無理」と言われることに挑むことにモチベーションを感じ、真摯に競技に打ち込むことで、たとえ失敗しても、他の部分の技術を高められるとも言われる。周囲の期待や熱をシャフトに、高く舞い上がれるのだ。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る