宇野昌磨に戻った笑顔。感情を伝える相手「ステファンがいてよかった」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「最後の4回転は跳べる気はしなかったけど、ジャンプをスルーしたのは初めてだったし、思わぬ行動になったので自分でもビックリしていました」と振り返る宇野は、演技終了の瞬間は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 結局、フリーの得点は164.95点で、合計252.52点。ショートプログラム(SP)で3位のマカル・イグナトフ(ロシア)を追い抜くことができず、0.63点差で4位に終わった。

「ジャンプをスルーしたあとは『すぐ跳ぼうかな』とも思ったんですけど、『そのままスルーにした方が次に切り替えられるなかな』という気もしたから、あわてて跳ばずに、とくに焦ることもなくやっていました」

 こう話す宇野は、公式練習でもジャンプに関しては跳び急ぐそぶりはまったく見せず、ウォーミングアップの滑りをしっかりしてから淡々と挑んでいた。そんな姿勢が、的確な判断をさせたと言える。ランビエルが帯同してくれている安心感もあるのだろう。

「演技後の苦笑いは『やっちゃったな』という気持ちもありましたけど、スルーをしてから大崩れはしなかった。『やっちゃったー!』という感じよりも、笑いながら『やっちゃったな』という感じ。あの失敗を笑いに変えられたからこそ、そこからちゃんとやることができたのだと思います。

 ただ、今日のようなちょっと変わったミスをしてしまったとき、もしフランスのようにひとりだったら、終わったあとにああいう顔はしていなかったと思います。僕はあの時は間違いなく、ステファンに向かってああいう顔をした。その時に思っている感情を、そのまま表現できる相手がいるということは、すごくよかった」

 今大会ではSPもフリーもミスが出て、表彰台を逃した。だが宇野自身、この試合で目指したのは、練習ではかなりいい状態の自分の演技が、試合でどう出るかを確認することだったという。その点では最後に4回転トーループに挑むこともでき、「練習は無駄になっていなかった。それがちゃんと生きたなと感じることができた」と言う。それが今回の大きな収穫だ。

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