度肝を抜く4回転を見逃すな。
トゥルソワが世界を「炎で焼き尽くす」

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 軽量を生かしてふわりと舞うジャンプは、特徴的だろう。ルッツでは上体を急角度に倒しながら、ロケットのように垂直に高く跳ぶ。跳ぶ、よりも、飛ぶ、に近いか。そして、駒のようにくるりと回転。体が軽いこともあるのか、着氷では落下する力をそらせる。

 他の星から来たような異質さだ。

 ―身長は伸びているのか?

 会見では、そんな質問が出た。成長期に入る中、同じように跳び続けられるのか。その不安はある。

「毎年、身長は伸びています。でもそれ以上に、ジャンプ力も上がっていますよ。今の身長は何cmだっけ? うーん、155cmぐらいだと思います」

 トゥルソワは無邪気に答えた。団子に束ねたブロンドの髪を気にしながら、体を少し縮め、横にいるザギトワの顔色を見て、"どうしてそんなこと聞くのかな"と頬を赤らめる。本人は、「跳べなくなる不安」など意に介していない。

 大人になる段階で、試練はあるだろう。多くの女子選手が、成長期の難関をくぐっている。会見では、ザギトワ自身が成長期に体が大きくなって「一時は、自分の手足がどこにあるか、わからない感覚に陥った」と不振を振り返った。その姿を見て、トゥルソワも神妙な顔を浮かべていた。

 しかし、時代の寵児はしばらく突っ走るだろう。

 ジャパンオープン、演技構成点は6人中5番手だった。逆説すれば、スケーティング技術の上達によって、まだまだ加点が見込める。ジャンプの難易度を落としても、力の差を見せつけられる状況だ。

「(生まれ故郷のリャザンから遠く離れた)モスクワに家族で拠点を移しました。この決断をしたことが大きかったです。サンボ70 (ロシアのトップアスリート養成学校。フィギュアスケート部門はエフゲニア・メドベデワ、ザギトワなど有力選手を輩出)で練習を始めたことで、"自分はスケーターとしてやっていける"と思えました」

 トゥルソワは言う。郷土から一家で引っ越し、競争に揉まれる日々を過ごした。同世代で同じサンボ70 所属のアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワとの接戦を制し、世界ジュニア連覇。シニア挑戦に向け、すでに覚悟はあるはずだ。

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