宇野昌磨はコーチ不在でも孤独じゃない。リンクの熱気を力に変える (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 10月5日、さいたまスーパーアリーナ。地域対抗戦の『ジャパンオープン』、宇野は上着を脱ぐだけで、大歓声を浴びた。黒に輝く模様を施した衣装だった。

「新たな自分というのはおかしいですけど、僕の演技を確立したい」

 宇野はそう説明している。今シーズン、フリーの曲に選んだのは、「Dancing on my own」。戻らない恋に「さようなら」を込めた切ないラブソングだ。

 宇野は音と一体になって滑り出すと、冒頭の3回転サルコウを成功した。しかし4回転フリップはわずかに着氷が乱れ、手をついてしまった。その後の4回転トーループは転倒。構成自体を落としており、技術点は伸びなかった。

「ジャンプは(練習でも)ノーミスでできるようになるまで跳びたい」

 そう語る宇野にとって、不本意な出来だっただろう。

 しかし、ステップもスピンも最高評価のレベル4を獲得し、全日本王者の真価も見せた。氷上のスピード感は十分で、鮮烈な印象になった。両足を180度開いて、上半身をそらす背面滑走「クリムキンイーグル」では観客を沸かせた。世界王者、ネイサン・チェンに及ばず、169.09点で2位だったが、上々のシーズン前哨戦だ。

 昨シーズン、宇野は自らに重圧をかけた。「優勝以外、考えない」。その負荷を跳ね返すことで、力をつけようとしているようだった。一昨シーズンが世界選手権、平昌五輪、グランプリファイナルといずれも2位だったことで、自ら覚悟を示した。

 そして全日本選手権ではケガをしながら、鬼気迫る演技を見せた。シーズン最高点で優勝。3連覇で王者にふさわしい姿を示した。

 一方、不退転で挑んだ世界選手権は4位に甘んじている。

「自分の弱さに失望しました。結果を求めて、『1位になりたい』と言っていた自分が、この演技の後では恥ずかしい」

 取材エリアで、彼は唇をかんだ。あふれ出る涙を止められなかった。感情の人なのだろう。行動原理が真っ直ぐなだけに、言葉に苦しめられたとも言える。

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