4回転は跳べないけれど──。宮原知子は自分の強みを磨き続ける (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 ジレンマはあるだろう。ジャンパーたちがフィギュアスケートの在り方までも変えようとしている。しかし、彼女は彼女のやり方で前へ進む。

「今までは不安を消すために、ひたすら跳び続けてきました。自分の気持ちが落ち着くまで。でも、(カナダでの指導では)いいものを何本って決めてスパッとやめる。いいイメージで終わるのも大事なんだな、と思えるようになりました。量より質。最初は練習量が少ない気がして何となく不安でしたが、先生(バーケル)に『いいよ』って言われると大丈夫なのかなって」

 彼女は、自身のスケートを真っ直ぐ磨き続ける。そうやって全日本を4連覇し、世界選手権で2度表彰台に立ち、2018年の平昌五輪では4位になった。行動と結果に真実はあるのだ。

――絶望することはあるのか?

 シンドラーのリストのテーマの流れで、そう訊かれた宮原が面白い答えをしている。

「絶望というほど大げさではないですが。調子が悪くていい演技ができない時、終わりだなって。無理かなって思います。そんな時は......寝て次の日起きたら、たいていすっきりとしていて......。あれ、なんかおかしいですね? 全然、絶望じゃない!」

 宮原は、春の風を起こすように小さく笑った。真面目にスケートを生きているのだろう。自分を磨くには、本気で自分を信じる必要がある。

「自分をしっかりと見つめる練習が足りないので、そこを追求したいです。試合は一発勝負。ジャンプはトリプルアクセルも入れたいですが、スケーティングやスピンなど、コンポーネンツ(演技構成点)で9点台を取れるように頑張りたいです」

 宮原知子は、絶望などしない。今月開幕するグランプリシリーズは、第4戦の中国杯、第5戦のロシア杯に出場する。

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