「やるか...」とつぶやく宇野昌磨。大技に挑む強い想いを胸に再出発 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 最初の4回転サルコウが回転不足でステップアウトになると、次のトリプルアクセル+4回転トーループは4回転トーループで左側に飛ばされる形になって転倒。さらに3連続ジャンプを予定していたトリプルアクセルで着氷を乱してしまった。しかし、1オイラー+3回転フリップを最後の3回転サルコウに付けてリカバー。結果はネイサン・チェンとビンセント・ジョウ(ともにアメリカ)に次ぐ189.46点の3位だったが、納得の表情を見せた。

「今日は演技中にいろんなことをつぶやいていました。演技が終わった時は『きつい』と言った気がするし、サルコウでミスをしたあとは『これは無理でしょう』とつぶやきながら滑っていました。

 今日はアクセル+フリップをできなかったので、これまでやったことがないサルコウ+フリップを『やるか...』、とひと言残して跳びにいったり......。サルコウが終わった時点でアクセル+トーループを跳ぶ体力はないと思ったので、跳べないのはわかっていたけど、『やるしかない』と思いました。それでそのまま左にぶっ飛んでいって転倒したけど、一応回転はしていると認定されていたので、今後も入れていきたいと思います」

 体力や気持ちなど、自分が持っているすべてを絞り出した演技だったのか。そう問うと宇野はこう答えた。

「あの構成での練習をしたことがなかったので、いい、悪いの評価をしようがないんですけど、明らかに体力不足だったなと思います。世界選手権が終わってから、自分にとっては長いと思える悔しい期間や辛い期間がありました。でも、その間にアイスショーがあって、そこで年齢が近い選手たちと話したり交流したりして気持ちが吹っ切れた。それで、『自分はうまくなりたいんだ』という強い想いを持って練習を始めました。すぐにこの試合だったので、大きく変わったところはとくにないし、気持ちが強くなったところもないけど、ここからスタートしていければと思います」

 爽やかささえ感じさせる表情で話す宇野は、今回の演技で見えてきたものがあるか、という質問に対してこう答えた。

「僕は、基本的にいいところより悪いところにしか目が向かないので......。とりあえず、今日のフリーは走った、という感じでした。ジャンプを跳ぶことだけを意識して、休んで走って跳んで、とプログラムとしてはぜんぜんなっていなかったし、体力が足りなかった。でも、僕は自分にも人にも負けたくないし勝ちたい。だから、もっとうまくなりたいと......、『強くなりたい』じゃなくて『うまくなりたい』と思いました。

 技術的なものや精神的なものは変えずに、しばらくはこのままで行こうと思います。弱い自分も強い自分もいるけれど、弱いところが出てもそれにしっかりと対応できる練習を積んでいけばいい。世界選手権の悔しさを強く心に刻んで、ここからスタートしていきたいと思います」

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