全日本の優勝候補筆頭。紀平梨花のトリプルアクセルは男子並み (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 また、アイスショーでは柔らかさのある大きな動きのプログラムに挑戦して、昨季まではところどころで硬さが見えていた滑りが、しなやかで大きさを感じさせるものになっていた。

 アイスショーではリンクが狭いということもあってジャンプで転倒することもあったが、「アイスショーでは急にジャンプを跳ばなければいけないという難しさはあるけど、演技を始めた瞬間から会場の雰囲気に慣れるようにすることを学べました。トリプルアクセルをやって他の選手よりもミスが多くなっていたので、自信をなくして『自分が弱いのかな』とも思っていましたけど、何度もそういう失敗をして、アイスショーに出たことで、氷への合わせ方の確率もすごく上がってきたのだと思います」

 紀平はジュニアの頃、「もちろんトリプルアクセルを跳ぶというのが前提ですが、すべての試合をノーミスでできることが目標。それができれば4回転などのもっと新しいジャンプにも挑戦できるので。まずはすべての試合で自分が一番満足できる演技をしたい」と話していた。それはもちろん、ロシアのジュニア勢が4回転を跳び始めていることを意識した言葉でもあった。

 今シーズンのGPファイナルでの紀平の優勝は、世界の女子に大きな衝撃を与えたことは確かだ。これまでも、浅田真央がトリプルアクセルで世界を席巻して数々のタイトルを獲得したが、緻密な演技構成で3回転+3回転などを武器にするキム・ヨナ(韓国)と競り合う時期が続いた。

 浅田やエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)など、トリプルアクセルに挑戦した選手を除けば、女子のジャンプ構成は06年ころから3回転+3回転が主流であり、その後も、ルッツやフリップのエッジ判定が厳しくなったこともあってトリプルアクセルや4回転に挑戦する選手はほとんど現れず、ジャンプは確率の高い3回転までにしてノーミスで演技することが主流になっていた。

 そのため、昨シーズンまではロシア勢がGOE(出来栄え点)加点を多くもらえるジャンプを意識した演技で上位を占め、ザギトワのように基礎点が1.1倍になる後半にジャンプを集中させるなど、完璧な演技で高得点を叩き出すようになった。

 今季はルール変更でジャンプのボーナス得点がSPは最後の1本で、フリーは最後の3本となったが、そのシーズンのGPファイナルで、紀平がトリプルアクセルを成功させて233.12点を叩き出したことは衝撃的だった。この得点は、昨季までのルールの得点を合わせても歴代3位になる。

 平昌五輪金メダルのザギトワが、今季のネーベルホルン杯で238.43点と高得点を出しているとはいえ、もしも紀平がGPファイナルフリー最初のトリプルアクセルもきれいに決めていれば、9点近く加算され、昨季までの歴代世界最高であるエフゲニア・メドベデワ(ロシア)の241.31点を超える可能性もあった。

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