金メダルより大切なもの。メドベデワがこだわった「演技への思い入れ」 (3ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha photo by JMPA/Noto Sunso

 フリーの滑走順はザギトワが先。だから演技前には、競い合う相手であるザギトワの得点はわかっていた。また、審判が自分に出す得点の出方もおそらく把握していただろう。そのことを踏まえた上で、勝負を優先して考えたら、メドベデワはジャンプ構成を少し組み替えて、プログラム前半に行なう予定のジャンプを、得点を増やすために後半に持ってくることもできたはずだ。

 しかし、勝負に勝つために完成作品である自分のプログラムを壊すことなど露ほども思わなかったのだろう。そこにメドベデワの信念が垣間見えた。潔さとフィギュアスケートの演技に対する思い入れを感じた。

 記者会見で、彼女は誇らしげにこう語っている。

「今日は、アンナ・カレーニナになりきることができたと思うし、プレッシャーはまったく感じず、ただ鳥のように羽を伸ばし飛び立つ感覚でした。まったく緊張していなかったです」

 基礎点に1.1倍がつくプログラム後半に7つのジャンプを集めたザギトワに対し、メドベデワは5つだった。その結果、フリーの得点はザギトワと同じ156.65点で、演技構成点が高かったことにより1位となった。だが、合計点では妹分にわずか1.31点差の238.26点にとどまり、金メダルを逃した。

 演技後、祈るような面持ちで待っていたメドベデワ。得点が表示されて勝負に負けたことがわかった瞬間、その目からポロポロと涙がこぼれ、悔しそうな表情を一瞬見せてうつむいた。しかし、泣き崩れることもなく、すぐに顔を上げて、泣き笑いの複雑な表情をみせた。

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