羽生結弦は冷静に、勝つべくして勝った。番記者が見た五輪V2の裏側 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA/Noto Sunao

 最初のSPの演技には、そのように冷静に自分を見つめてきた気持ちが表れていた。

「ジャンプは練習通りです。本当に自分の体が覚えていると思っていたし。とにかくアクセルもサルコウもトーループも、本当に何年間もずーっと一緒に付き合ってくれたジャンプなので、そういった意味では感謝をしながら跳んでいました」

 そんな言葉の通りに、3本とも力みは一切ない自然できれいなジャンプとなる。プログラム全体のみならず、ジャンプに入るスピードや入り方など、表現も含めてすべてを冷静にコントロールしているような演技だった。

 SPより演技時間の長いフリーにはスタミナの不安も感じたが、SPのようなジャンプができれば大丈夫だろうと予想できた。

 翌日のフリーの演技は、SPで冷静さに丁寧さが加わったような滑りだった。

「前半を丁寧にいったというか、6分間練習でサルコウが不安だったので、とにかく最初の4回転サルコウさえ降りれば前半の感覚で後半も跳べると思っていた」

 柔らかさを感じさせるステップで前半を終えると、後半の4回転サルコウ+3回転トーループもきれいに決めた。唯一、力を使ったように見えたのは、4回転トーループの着氷を乱して連続ジャンプにできなかった直後のこと。トリプルアクセルからの連続ジャンプを予定していた2回転トーループではなく、1ループ+3回転サルコウに変更したときだ。羽生からは「いってやる!」という気迫が滲み出ていた。そして最後の3回転ルッツでも着氷を乱したが、なんとか耐えて8本のジャンプを跳びきった。

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