フィギュアのマニアが「羽生結弦の金メダルに、号泣しつつ願ったこと」 (2ページ目)

  • 高山真●文 text by Takayama Makoto
  • Photo by JMPA



「羽生結弦が素晴らしいパフォーマンスを見せてくれることを、露ほども疑っていない」

 と私は何度か書きました。しかし、羽生はこちらの予想を何十倍、何百倍も激しく、美しく超えてくれたのです。私にとっては「泣くな」というほうが無理です。織田信成氏が、この演技を見ながら客席で大号泣されていた気持ち、心からわかります。


 そして、2月17日のフリー。6分間練習で、羽生の調子は決して「いい」とは言えなかったと思います。そして、1本目のジャンプは、4回転のループではなく4回転のサルコーでした。このサルコーの出来映えは本当にうっとりするほどだったので、私はさっそく涙がにじんでしまったのですが、それと別の涙がにじんでくるのも感じていました。

「ああ、実は『ギリギリ出られる』くらいのレベルだったんだ。ケガをしてからここまでの間、何かひとつでもチョイスを間違えたら『ギリギリ』ではなく『終わり』を迎えてしまうような、綱渡りのような日々を過ごしてきたんだ。その間、揺れ動くに決まっている自分の気持ちを必死になってコントロールしてきたんだ」

と。

 そんな「万全」からは程遠い状態でも、羽生結弦は「冷静と情熱の間」を破綻することなくコネクトしていきました。2本目の4回転トウは、本来ならばハーフループからトリプルサルコーまでつなぐシークエンスにしていたはず。その4回転トウの着氷が乱れてシークエンスにできなかった分を、直後のトリプルアクセルをシークエンスにすることで、得点のロスを最小限に抑える瞬間的な判断も見事でした。「イーグルから時計回りのツイズル」というとんでもないトランジションから跳ぶトリプルアクセル、そしてトリプルサルコーまでのシークエンスは、2015~16年シーズンの『SEIMEI』の、私にとってのハイライト。それをまたここで見られるとは!

 最後のトリプルルッツもよくこらえました。たぶんここは、本来ならばジャンプの着氷後ただちにフライングシットスピンに入るプログラムデザインだったと思うのですが、「きちんとフライングができる体勢になるまで、待った」と私には見えました。それが、「スピンのレベルを落とさない」結果につながったのでは、と。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る