羽生結弦の初戦、心もスケーティングも「静かに演じた」世界最高得点 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyamas Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

  自分の感情を表面に出すのではなく、音の流れに任せて滑り出し、そのままの心の中の静けさを表現して、ジャンプに挑む。最初の4回転サルコウを力むことなくきれいに決めると、その流れを次のフライングキャメルスピンにつなげる。続くチェンジフットシットスピンで徐々にスピードを上げ始めると、その流れからトリプルアクセルを軽やかに決め、続く4回転トーループからの連続ジャンプも完璧に決めた。

 その連続ジャンプは、シーズンオフのアイスショーで何度か見たような力強さを前面に押し出すものではなかった。そして次のステップシークエンスも感情の発露を少し抑える雰囲気で丁寧に滑ると、最後はチェンジフットコンビネーションスピンで締める。「丁寧にやろう」という気持ちを強く感じさせる演技だった。

 得点は、自身が2015年のグランプリファイナルでマークした世界歴代最高得点の110・95点を上回る、112・72点の新たな歴代最高得点。

 スピンとステップはすべてレベル4の評価を受け、冒頭の4回転サルコウと後半最初のトリプルアクセルはジャッジ7名全員が出来栄え評価のGOEで満点の+3点を並べるジャンプ。4回転トーループ+3回転トーループもふたりが+2点とした以外はすべて+3点で、2・80点の加点になるほぼ完璧な出来だった。

 しかし、羽生はその得点に驚きの表情は見せなかった。

「前のグループで滑ったハビエル(・フェルナンデス/スペイン)が101・20点を取った段階で、『自分のベストは110点』ということを頭の中に入れてやっていた。冷静に考えてみれば、あの時(2015年)は前半に4回転をふたつ入れていたので、それとはまったく違うと思っています。自分の中ではぜんぜん違うレベルのものをやっていると思いますし、実際、トーループはターンから入って、両手も上げて跳んでいますから。そういうところも成長できているので、感触としては『いい演技ができれば自ずと点数は出る』と思っていました。この曲のプログラムで110点を2回とっているので、自信を持って滑れたのかなと思います」

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